51.水口 (『双筆五十三次』:初代広重、三代豊国) 

「ひらかな盛衰記」 

着物を半分脱ぎ、たすき掛けにした女性と武士がつばぜり合いをしている。目録を見ると、水日宿を表す「水」のまわりに「口」の意匠が書かれ、その下に「盛衰記笹引」とある。「笹引」とは、人形浄瑠璃や歌舞伎での演目「ひらかな盛衰記」の一場面のこと。「ひらかな盛衰記」は全五段からなる時代物の義太夫節。元文四年(一七三九)竹本座初演で、翌月には歌舞伎にも移された。図に描かれる女性の名はお筆。「笹引」は本演目の三段目に出てくる場面。木曽義仲の室、山吹御前は腰元お筆、お筆の父である蒲田隼人、義仲の嫡子駒若丸とともに木曽路を目指して落ち延びている。大津の旅籠屋に一泊したところ、夜半に源氏方の梶原景時の家臣番場忠太に襲撃される。同じ宿には旅の老人と娘、そして孫の槌松という子供が泊まっており、混乱の中で槌松と嫡男駒若丸は取り違えられ、槌松は代わりに殺されてしまう。山吹御前、お筆の父蒲田隼人も殺され、お筆が山吹御前の亡骸を笹にのせて引くことから、この場面を「笹引」と言いう。本図でお筆が刀を交わす男は番場忠太と思われる。

風景解説

コマ絵の右側には、「岩根山眺望」と書かれている。岩根山は水口宿の西側に位置する山で、十二坊とも呼ばれ、山腹には本堂が国宝に指定されている善水寺というお寺がある。画面手前に鮮やかな緑色で岩根山の様子が捉えられ、山頂では旅人が数人で眼下の眺望を楽しんでいる。『東海道名所図会』の岩根山善水寺の項では、岩根山は山頂から彦根城や琵琶湖一帯が見渡せる絶景の地として紹介されている。たしかに本図のコマ絵では、彦根城の様子や、中景から遠景にかけて広がる雄大な琵琶湖の眺めが描かれている。東海道五十番目の宿場町、水口宿は加藤氏二万五千石の城下町としても栄えた。宿場の南側には野洲川が流れ、街道沿いには水口城がある。水口宿の名産品としては、葛籠細工、煙管などが有名。

参考文献

渡邊晃『謎解き浮世絵叢書 三代豊国、初代広重 双筆五十三次』(二玄社・2011)

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