11.箱根壁(『双筆五十三次』:初代広重、三代豊国)

「箱根霊験躄仇討」

 躄車に乗せられた男の名は飯沼勝五郎。女性は勝五郎の妻初花で、二人は仇討ちに浮かう道中。享和元年(1801)に初演された「箱根霊験躄仇討」という人形浄瑠璃がある。すぐに歌舞伎にも移され、人気の演目となった。飯沼勝五郎と初花はこの中に出てくる。登場人物。太閤久吉に仕えていた勝五郎の兄、三平が同僚の佐藤剛助に殺される。剛助は滝口上野と名を変え、北条家に仕えたため、勝五郎も正体を隠して北条家の家臣に奉公する。初花は、その奉公先の娘。勝五郎は後に足を悪くし、車に乗り、妻となった初花に押してもらいながら仇討ちの機会を伺う。初花も剛助に討たれてしまうが、亡霊となって箱根権現に祈願したところ、勝五郎の足が治り、見事仇討ちを果たすという筋。

風景解説

 水面にごろごろと岩の転がった川の流れと橋が描かれ、遠景にはいくつかの山が見える。橋の名前が画中に記されており、「三枚ばし」と読める。山々は二色で色分けされており、緑色の山の向こうには灰色の山が見得、小さく「二子山」と書かれている。手前の川は、箱根附近を流れる早川。芦ノ湖を水源とし、相模湾にそそぐ川。三枚橋は今でも箱根湯本駅の近くで早川に掛けられている。箱根宿は二子山のさらに先にある。江戸からの人の出入りを厳しく見張ったことで知られる箱根の関と、東海道最大の難所とも言われる箱根峠との間に位置していた。飯沼勝五郎の妻、初花が祈りをささげた箱根権現は、同じ芦ノ湖沿いで、箱根の関の少し北川に位置している。三所大権現とも呼ばれ、古子から山岳信仰の霊地として有名。

〈参考書籍〉

渡邊晃『謎解き浮世絵叢書 三代豊国、初代広重 双筆五十三次』(二玄社・2011)

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