33.白須賀 児雷也(『双筆五十三次』:初代広重、三代豊国)

人物解説

 道に駕籠が止められ、中には月代を伸ばし、刀を挿した男が乗っている。駕籠の脇には幼い子供がおり、地面を這いまわっている。駕籠の中の男も子供の事をきにしている。目録には「白須賀 児雷也」と書かれている。児雷也とは、天保10(1839)から美図垣笑顔が手掛けた合巻『児雷也豪傑譚』の登場人物。作品の挿絵を手掛けたのは、本図の人物を描いている歌川国貞(のちの三代豊国)。この作品は大好評を博し、その後作者や絵師を交代しながら明治初年まで出版が続けられた。本図に描かれる図様は『児雷也豪傑譚』6編に描かれた挿絵とよく似ている。賊に母子が襲われ、母親が瀕死となったところに鮫鞘四郎三(実は児雷也)が駕籠で通りかかり、赤子を引き取る場面で、後にこの子供は捨松と名付けられる。本図の児雷也の顔は原作とは異なり、八代目市川団十郎の似顔を思わせる風貌。これは、本作が好評を受けて『児雷也豪傑物語話』として初演された際、八代目市川団十郎が児雷也を演じたことを踏まえたものと思われる。

風景解説

 画面手前から遠景に掛けて、美しい青のぼかし上げで遠州灘が描かれている。浅瀬には小舟が数艘浮かび、遥か遠くの沖合にはいくつもの白帆が見える。右手前には小高い丘と坂道があり、旅人たちが息を切らして登っている。「汐見坂」は白須賀宿ヘ向かう途次にある坂。もともと白須賀宿はより東の海岸沿いに位置していたが、宝永4年(1707)の大地震と津波により、大きな被害を受け、翌年に汐見坂を上った先に移された。この汐見坂からの眺めの良さは東海道でも随一。

参考文献

渡邊晃『謎解き浮世絵叢書 三代豊国、初代広重 双筆五十三次』(二玄社・2011)

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