5.程ヶ谷 伊勢参(『双筆五十三次』:初代広重、三代豊国)

人物解説

 少年が伊勢参の必需品である柄杓を持っている。柄杓を道中の人々に差し出すと、恵んだ方も功徳になると言われ、お金やお米がもらえた。江戸時代には、伊勢参は庶民でも一生に一度は経験してみたい願いであった。数十年に一度、全国的に伊勢参りのブームがおとずれ、数百万人単位の人々が伊勢を目指したと言われている。また中井は「抜け参り」と言って、子供や奉公人などが親や主人に関係なく、伊勢参宮に出かけることもあったが、特例として咎められることはなかった。本図の少年も抜け参りで伊勢に向かう途中であると考えられる。少年と女性の関係は定かではないが、二人のポージングからして、知り合いではなく、別々に旅をしていると思われる。

風景解説

 東海道4番目の宿場。「金沢海道 山野風景」とあり、見渡す限り野原が広がり、遠景に富士山が描かれ、麓は霞んである。両側に植物が生い茂った道を、菅笠を被った旅人たちが進んでいくのが見える。後方には駕籠に乗った旅人もいる。程ヶ谷は、岩間、神戸、帷子の四つの町からなる宿場町。また、東海道の宿場町であるだけでなく、本図に描かれた、金沢八景を経て鎌倉に至る金沢街道、八王子方面へ向かう八王子街道、大山方面に向う大山道など、幾つもの道が分岐する交通上の要衝でもあった。武蔵野国の西端の宿場であり、次の戸塚宿は相模国。

〈参考文献〉

渡邊晃『謎解き浮世絵叢書 三代豊国、初代広重 双筆五十三次』(二玄社・2011)

関連記事

arrow_upward