41.鳴海 丹右エ門(『双筆五十三次』:初代広重、三代豊国)
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「伊賀越道中双六」
目録に記されているのは「鳴海 丹右エ門」。二人は「伊賀越物 」よばれる人形浄瑠璃や歌舞伎の一系統に登場する人物。伊賀越物の代表的な作品「伊賀越道中双六」で二人が登場するのは「円覚寺の場」。関東管領上杉家の家臣和田幸家が沢井股五郎に殺され、上杉家の使者である佐々木丹衛門らは、股五郎をかくまった沢井城五郎らが立てこもる円覚寺へと向かう。佐々木丹衛門はすでに人質にとっていた又五郎の母鳴海と、和田家の重宝政宗を渡す代わりに股五郎の引き渡しを求めるが、鳴海は正宗を奪って自害する。しかし、本図の鉄砲を持った鳴海の図様と上記の場面は様子が異なるようである。本図が出犯される少し前、嘉永5年(1852)2月に中村座で「伊賀越読切講釈」という伊賀越物の狂言が上演されている。この上演では丹右衛門を四代目市川小団次、鳴海を十一代目守田勘弥が演じているが、本図の人物の相貌はそれに近い。
風景解説
闇夜の中、荒れ狂う波の様子が描かれている。沖へ向かって幾筋もの波間が見え、その間から列を作って飛んでいくのは千鳥。画面右には海に突き出た陸地と松の木が描かれている。左側には「鳴海宿 星崎」という書き込みが見られる。松尾芭蕉が読んだ「ほしさきの 闇をみよとや 啼くちとり」という句が知られており、この書き込みはその故事をもとにしたものと思われる。
参考文献
渡邊晃『謎解き浮世絵叢書 三代豊国、初代広重 双筆五十三次』(二玄社・2011)
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