26.日坂(『双筆五十三次』:初代広重、三代豊国)

「ひらがな盛衰記」の梅ヶ枝

髪に簪をいくつも挿して、険しい表情を浮かべ柄杓を振り上げている女性の名は梅ヶ枝と言い、人形浄瑠璃や歌舞伎で有名な「ひらがな盛衰記」の登場人物。梶原景季の恋人であり、本名を千鳥というが、劇中の「神崎千年屋」の場では遊女となり梅ヶ枝を名乗っている。景季が出陣するに際し鎧が入用となるが、鎧は三百両で質に入れてあり、お金を工面したいが方法がなく、途方に暮れた梅ヶ枝は「無間の鐘」の伝説に見たてえ、手水鉢を柄杓で打っている。無間の鐘の伝説とは、小夜の中やの近くの無間山の観音寺にある「無間の鐘を打つと、現世では富を得るものの来世では無限地獄に落ちるというもの。無限山は日坂宿の北にあるやまで本図のコマ絵にも描かれている。

風景解説

 画面右側に集落が描かれ、画面左に向って急峻な峠道が描かれている。遠景には山を望み、余白に「小夜の中山 無間山眺望」と書かれている。金谷宿を出て西に向かうと、途中で鎌倉時代の古い宿駅である菊川宿を経た後、小夜の中山の尾根道を経て日坂宿へと辿りつく。

参考文献

渡邊晃『謎解き浮世絵叢書 三代豊国、初代広重 双筆五十三次』(二玄社・2011)

関連記事

arrow_upward