伊勢物語(「東下り」)

・タイトル:『伊勢物語』(『在五が物語』『在五中将の日記』)

・作者:未詳

・時代:平安前期(900年前後)

・形式:歌物語

・巻数:一巻(125段) 

 おおむね「昔、男ありけり」のごとき書き出しを持つ、長短多様な、歌を中心とする小話を集積した形になっている。この各章段を貫く主人公の男は、在原業平を目して構えられていると見られ、業平の歌と判明するものだけでも三十余首に達し、その他の人の歌、古歌などを軸にして、業平の逸話や古伝承を織り込んで、数々の小篇が構築されている。現存本では、それらは一代記的に配列構成され、ある男が初冠して春日里で美女に歌を贈る物語に始まり、以後多くは、さまざまの恋の物語が続くのであるが、二条后の段、東下りの段、伊勢斎宮の段、惟喬親王の段、紀有常や在原行平に関する段などが、連鎖あるいは点在し、男の辞世の歌の段で終る。おおよそ誰とも知れぬ男女の物語のごとく書き進められているが、間々実名を出し、実話めいた段もある。全体の構成は緊密ではないが、珠玉の小篇をちりばめ、人の情を中心的に描き出している詩的作品である。成立以来、多大の愛読を得、歌人・連歌師必読の古典と尊重され、後代の文学に大きな影響を与え、注釈書もはなはだ多量に上る。本文は成立事情に加えておびただしい流布のため、諸形態が伝わっている。

 東海道が出てくるのは『伊勢物語』第九段「東下り」である。「東下り」に取り上げられている場面は、八橋と杜若、宇津の山と蔦・楓、富士山、すみだ河、宮こ鳥。これが核となって東海道をテーマとして文学作品や美術作品が作られ、同時に東海道には以降多くの史跡や伝承が再生産されていく。

翻刻・口語訳:「「JapanKnowledge」」(『新編日本古典文学全集』)

参考・おすすめサイト・文献

福井貞助「伊勢物語」,『国史大辞典』 (「JapanKnowledge」,https://japanknowledge.com )

山本光正『東海道の創造力』(臨川書店・2008)

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