40.業平 八ツ橋 池鯉鮒(『双筆五十三次』:初代広重、三代豊国)

人物解説

 目録には「業平 八ツ橋 池鯉鮒」と記されている。この記述の通り、本図に描かれているのは在原業平の姿。『伊勢物語』第九段「東下り」の中に、有名な「八橋」のエピソードがある。業平と考えられる主人公が、都での生きがいを無くして東の国へと旅にでる。途中、三河国の八つ橋という場所を通りかかり、木陰で休憩していると、美しい杜若を見つけた。しこで「かきつばた」という五つの文字をそれぞれ句の頭文字として「から衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」という歌を詠んだという話。

風景解説

 「八ツ橋村 杜若の古蹟」という文字が見え、池鯉鮒(知立)宿近くの八橋の光景を描くものと思われる。平原を蛇行した道が続き、道沿いには旅人の姿も見られる。画面手前や奥には丘があり、遠景には松野並木が描かれている。池鯉鮒宿の東の野原では毎年4月25日から5月5日まで馬市が開かれたことが知られ、『保永堂版』にも描かれている。

参考文献

渡邊晃『謎解き浮世絵叢書 三代豊国、初代広重 双筆五十三次』(二玄社・2011)

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