15.吉原 西行(『双筆五十三次』:初代広重、三代豊国)

西行法師と富士

蔦の絡まる木の幹越しに、美しい富士山を望む。膝を抱えて座り込む墨染衣の老人は、西行法師。平安末期から鎌倉初期に生きた西行は、剃髪後諸国を行脚し多くの和歌を残した。晩年、奥州へと旅をする西行がその途中で富士山を詠んだことから、絵画でも西行を富士とともに描くことがしばしばなされた。「風になびく富士の煙の空に消えてゆくへも知らぬわが思ひかな」。

風景解説

吉原附近は「左富士」と呼ばれる冨士見の名所として有名。吉原宿は、江戸時代の早い時期には海のすぐ近く、現在のJR吉原駅付近にあったが、度重なる津波の被害が起き、吉原の宿場は海から離れた北川に移転した。そのため、吉原宿の手目で東海道は大きく右に曲がり、北上するルートとなった。通常江戸方面から東海道を進む旅人は右手に富士を眺めるが左側に見える。

〈参考文献〉

渡邊晃『謎解き浮世絵叢書 三代豊国、初代広重 双筆五十三次』(二玄社・2011)

神谷浩『広重-雨、雪、夜 魅力をひもとく』(青幻舎・2017)

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