12.三嶋於千(『双筆五十三次』:初代広重、三代豊国)
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三島のおせん
大きな帯をし、背中には尺八を、帯には一本の太刀をさし、将棋の駒をあしらった模様が印象的な着物を着た女性の名前は「三島のおせん」と呼ばれる人物で、江戸時代の芝居に登場する。おせんに向かい合う何やら野卑な表情をした男性を、おせんは片手で軽々と押さえつけており、どうも腕のたつ女性の様だ。おせんは古いものでは寛政2(1790)年に大阪で人形浄瑠璃として演じられた「恋伝授文武陣立」という舞台があり、ここでおせんは方丈時政に滅ぼされた伊藤祐清の女房役として登場した。また、ちょうどこの絵が出版された安政元年8月の上演である「吾嬬下五十三驛」という歌舞伎の舞台にも、三島のおせんは登場している。この舞台でおせんは、実は盗賊であるという設定で演じられていた。本図はこの上演を意識して書かれたものと思われる。この舞台でおせんを演じたのは初代坂東しうかという名女形。前名は玉三郎で、現代の名女形、五代目坂東玉三郎のルーツにあたる。
風景解説
手前に小高い丘が描かれ、その先の川が描かれている。川には橋が渡され、街道沿いの街並みが見えている。家々には、明かりが灯されており、夕方か夜の風景であると想定できる。三島宿は東海道11番目の宿場町。広重が『保永堂版』で描いた「三嶋」の図は、朝霧に霞む三嶋神社の鳥居が印象的であったが、本図では三嶋宿の東を流れる大場川と思われる川が描かれていると考えられる。
〈参考文献〉
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