25. 金谷(『双筆五十三次』:初代広重、三代豊国)

「生写朝顔話」の深雪

 頭に朝顔の髪飾りを付け、朝顔が描かれている扇子を持っている女性の名は深雪。人形浄瑠璃や歌舞伎の「生写朝顔話」の登場人物として知られている。宇治の螢狩りで深雪は儒者の宮城阿曽次郎と出会い、恋人となる。阿曽次郎との再会や悲しい別れを経て、深雪には縁談の話が来るが、相手の駒沢次郎左衛門が実は改名した阿曽次郎であることを知らずに、深雪は悲嘆にくれて家をでる。その後失明した深雪は瞽女となり、朝顔と名乗って東海道を彷徨う。本図に描かれているのは瞽女となった深雪で、その背後にあるのは琴の入った包み。手に持っている扇子は、宮城阿曽次郎が朝顔の歌を書いて、深雪に送ったもの。深雪が阿曽次郎を追い、大井川を越えて金谷方面を目指す場面があることから、本図は金谷宿と結びつけられていると考えられる。この系統の芝居の上演として近い時期のものでは、嘉永元年(1848)8月市村座での「絵入稗史蕣物語」があり初代坂東しうかが深雪を演じている。

風景解説

 大井川の流れが描かれ、遠景には富士を仰ぎ、手前には右手に大きく山が配され、中央から左に掛けて坂道が見えている。坂道には街道をゆく旅人たちが描かれ、坂を下りきったところにある集落が金谷宿。画面右側には「金谷坂道より 大井河不二眺望」と記されている。『保永堂版』とは反対の視点で描かれている。

参考書籍

渡邊晃『謎解き浮世絵叢書 三代豊国、初代広重 双筆五十三次』(二玄社・2011)

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