35.吉田 阿蘭ノ方(『双筆五十三次』:初代広重、三代豊国)
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人物解説
女性が左手を男性の膝へ置き、右手には扇子を持ち、雪洞の方を差し示して男性を誘惑しているように見える。男性の風貌は、八代目市川団十郎の似顔絵、これは、裃に見える六弥太格子や牡丹、瓢箪の文様が団次郎ゆかりのものであることも明らか。本図の目録には「吉田 阿蘭ノ方」とある。阿蘭の方とは、歌舞伎の忠臣蔵ものの作品「義臣伝読切講釈」に登場する人物だが、狂言には本図のような場面は見当たらない。なお、千姫が夫の死後、御殿に若い男を招き入れては貞操をもてあそんだという「吉田御殿」という伝承がある。どことなくこの話との関連も早期される。
風景解説
川の流れが描かれ、画面右手前から左に向って橋が渡される。川には帆掛け船などがいくつか浮かび、対岸には松林の向こうに城郭が見えている。ここは東海道三十四番目の宿場、吉田宿。現在の豊橋市の中心部にあたり、画面を流れる川は豊川。豊川にかかる吉田橋は東海道のなかでも大きな橋として知られ、長さが120間(約216m)ほどあった。豊川では水運が盛んであった。吉田城は戦国時代に今川氏が気づいたのを始まりとし、徳川家康や池田輝政の統治を経て、江戸時代にはいくつかの譜代大名がこの地を治めた。
参考文献
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