13.沼津 於米 重兵衛(『双筆五十三次』:初代広重、三代豊国)

伊賀越道中双六

 目録を見ると、沼津の項には「於米 重兵衛」と書かれている。小袖姿で団扇を持って居る男と、島田髷の女性は、人形浄瑠璃や歌舞伎で有名な「伊賀越道中双六」という芝居の登場人物。呉服屋である重兵衛は、沼津宿で人足の老人平作と出会い、平作の家に泊めてもらうことになる。ここで出会ったのが平作の娘であるお米。実は平作は息別れた重兵衛の実の父であり、お米は妹であった。しかも、重兵衛の主人である沢井股五郎は、お米の夫、和田志津馬の仇にあたる人物。運命の偶然に驚きつつ、重兵衛はそっと平作の家を去る。この物語のモデルは、寛永11年(1634(に伊賀上野鍵屋の辻で起きた「伊賀越の仇討ち」。渡辺数馬と剣豪荒木又右衛門が、河合又五郎を討って仇をとった事件。この事件は忠臣蔵、曽我の仇討ちとともに三代仇討ちの一つにも数えられ、芝居にも盛んに移されて「伊賀越物」という一系統となっている。なお本図の重兵衛の相貌は、三代目坂東三津五郎を彷彿とさせる似顔で描かれている。

風景解説

 沼津宿とその一帯が描かれている。遠景には富士を大きく配し、その手前には愛鷹山とその周辺の山々が見えている。麓に目を転じてみると、画面の右から左に向って書かれているのが沼津宿。画面の右端には沼津城が描かれている。沼津城の南の海岸沿いには古くから松が植林されており、千本松原とよばれている。本図はそのあたりから北を眺めたものと思われる。千本松原は沼津宿から西に向かって伸びており、吉原宿の辺りまで続いている。

〈参考文献〉

渡邊晃『謎解き浮世絵叢書 三代豊国、初代広重 双筆五十三次』(二玄社・2011)

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