雁について

 『日本の歳時記』

 雁を仰ぎ、その声を聞きながら悠久の時の流れに思いを馳せる。人間は人間界で暮らしているが、時折そこに外の世界から消息がもたらされる。晩秋に北方から渡ってくる雁はその一つ。雁は姿よりも声の鳥だった。雁を「かりがね」ともいうが、漢字で書けば「雁が音」、つまり、雁の声。これがやがて雁そのものをあらわすようになる。これは、雁が何よりも「声の鳥」であったことをあらわしている。雁と呼ばれる鳥には、真ま雁がん、四し十じゅう雀から雁がん、白はく雁がん、菱ひし喰くい、大おお菱ひし喰くい、酒さか面つら雁がん、灰はい色いろ雁がんなどがある。なかには「雁が音」という種類もいるのでややこしい。

『東洋画題綜覧』金井紫雲

 雁は鴨、鵠、秋沙などゝ共に雁鴨類に属する候鳥で、種類には、真雁、菱喰、白雁、四十雀雁、海面雁、灰色雁、雁金等があり、北地に於て繁殖し、晩秋初冬の候に渡来し、早春再び北地に去る、その渡るや多数群をなし、その鳴き渡る声一種の哀調を帯びてゐるので古来文人詩人の吟詠に上ること多く、その竿をなして中天に飛翔する様、また風情があるので古来絵画に描かるゝ場合極めて多い、右の種類の中、最も多く絵画に現はるゝは真雁、菱喰、雁金等で、時に白雁も描かれる、菱喰は古来鴻の名を以て呼ばれ、詩歌などに詠賦さるゝこと多く、近頃は黒雁、印度雁等も稀に絵画に現はれる、而して絵画に現はるゝ雁は花鳥画に於ては芦雁最も多く、山水にしては平沙落雁が聞えてゐる、此の外月下飛雁、敗荷落雁、漢照看雁等の画題があり、人物画には聞雁がある。

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