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1.06.4 母と婿の亀裂

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 「仮名手本忠臣蔵 六段目」
 
国貞〈1〉 大判/錦絵 役者絵
三枚続の内1枚
出版:文政後期(1825~30) 江戸
立命館ARC所蔵 arcUP1169
【前後期展示】 .
 
■解説
 与一兵衛女房は勘平が与一兵衛を殺したのだと知り、勘平につかみかかり罵る。そこへかつては同じ判官の臣下であった千崎弥五郎と原郷右衛門が現れたため勘平は元武士としてのプライドがあったのだろうか、間に合わせの粗末な刀を持って二人を出迎える。現時点では勘平も自分が与一兵衛を殺したと思い込んでおり、自分を責めたてる与一兵衛女房に対して何の申し訳も立たない状態である。原作では「五体に熱湯の汗を流し」たような気持ちであると表現されている。そのような切迫した思いの勘平と、罵っても夫は帰ってこないと分かりつつもそうせずにはいられない与一兵衛女房の表情がリアルに描かれ、非常に人間らしさを感じる絵である。(藤井)

1.06.5 罪の行く末

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「仮名手本忠臣蔵 六段目」
 「勘平 市村家橘」「おかる 岩井紫若」「母かや 実川勇二郎」「ぜげん源六 中むら鶴蔵」「才兵衛 市川九蔵」「郷右衛門 尾上松緑」「勘平 中村芝翫」「弥五郎 中村宗十郎」
 
芳滝 大判/錦絵(横) 役者絵
出版:慶応1年(1865) 大坂
立命館ARC所蔵 arcUP2890
【前期展示】.
 
■解説
 右上は五十両という大金と引き換えにお軽を迎えに来たものの、なかなか家を出ようとしないお軽に判人・源六が文句をつける場面である。続いて左下は千崎と原郷が勘平を責めたてる場面である。
 本図の元となったであろう歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」の上演は大坂で行われている。そしてこの芳滝の浮世絵も大坂で出版されたものであり、このような浮世絵を江戸に対して上方絵という。(藤井)

1.06.6 勘平の償い

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「役者見立忠臣蔵」「六段目」
 
春亭 間判/錦絵(横) 役者絵
出版:文化7年(1810)江戸
立命館ARC所蔵 arcUP2426
【前期展示】 .
 
■解説
 千崎と原郷がやってきた目的は、勘平を敵討の仲間に加えるためではなかった。勘平は主人の大事に居合わせなかったことを詫び、許しを乞う。しかし千崎たちは不忠不義をした者の金は受け取れないとして、勘平が渡した五十両を返したのであった。その五十両を見て与一兵衛女房はこれが夫を殺して奪った金であることを千崎らにも涙ながらに訴えた。驚いた千崎らは声を荒らげて勘平を責めたてる。親同然の義父から金を奪った上に殺す重罪人、お前のようなものは武士ではないと二人からは咎められ、与一兵衛女房にも言い訳が立たない。たまりかねた勘平は着物を脱ぎ捨て腹に脇差を突き立てる。そして昨夜のことを語りだした。詳細を聞いた弥五郎が与一兵衛の傷口を改めるとそれは鉄砲傷ではなく刀傷である。ここへ来る途中に鉄砲で撃たれ死んでいる斧定九郎に出会っていた弥五郎ははっと気づく。実は与一兵衛はその帰りに山賊である定九郎に殺され、その定九郎を撃ったのは勘平であったのだ。知らず知らずのうちに与一兵衛の敵を撃ち、その大事な金も無事に届いていたことを知ったが、勘平はすでに虫の息である。最後に千崎らは改めて五十両をとりおさめ、勘平を敵討の連判状に加えることを約束し、勘平の最期を見届けたのだった。(藤井)

1.07.1 それぞれの思惑

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 「仮名手本忠臣蔵 七段目」
 
国貞〈2〉 大判/錦絵 物語絵
出版:嘉永4年(1851)頃 江戸
立命館大学ARC所蔵 arcUP1992
【前期展示】.

■解説 
   七段目の舞台は、京都祇園は一力茶屋である。この段は忠臣蔵の中でも特に華やかで、見どころの一つである。この絵は七段目に登場する主要人物が総じて描かれている。登場人物は多様で、入れ替わりが激しい。また、手前から奥行きを持って描かれ、大きく分けて右と左で場面が異なっているが、時間の推移としては、奥から手前にそして右奥へと展開してる。
   奥の座敷では、由良之助と斧九太夫が酒盛をする様子が描かれており、その手前には、九太夫が乗っているはずの駕籠に石が乗っていることを驚く鷺坂伴内。最前の二人は、由良之助と顔世御前からの密書を届けに来た息子の力弥である。右の大広間には、遊女となったお軽とその兄の寺岡平右衛門が対面しているが、お軽は中二階におり、実は鏡で、広間の軒の吊行灯の燈で顔世からの手紙を読む由良之助を見下ろしながら、密書の内容を盗み見ているのである。そして由良之助の立つ縁の下には、九太夫が手紙を覗き見ているはずであるが、本図では、九太夫の姿を判別し難い。(小笠原a)

 

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1.07.2 放蕩者の由良助

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「忠臣蔵」 「七段目」
 
広重〈1〉 大判/錦絵 物語絵
出版:天保前期(1830~1835) 江戸
立命館大学ARC所蔵 arcUP4651
【前後期展示】.
 
■解説
  この絵では大星由良之助が九太夫とともに宴を楽しむ姿が描かれている。祇園で遊びほうける由良之助を見て、味方の矢間十太郎・千崎弥五郎・竹森喜八郎の三人が由良之助の真意をはかりかね、彼のもとへやってくる。三人には、塩冶の足軽で北国へ使いにいっていた平右衛門も付いてきていた。彼らは由良之助の様子を見て怒り呆れるが、平右衛門は自分もなんとか敵討ちに加わりたいと申し出る。しかし由良之助は相手にせず、彼らをなだめて酒を飲むのであった。
 さて、由良之助のこの体たらくを見てもなお、九太夫は敵討ちの意思を疑わずにはいられなかった。由良之助の招いた宴に同席し、酒の力を借りて彼の本心を聞き出そうとするのであった。
 格子柄の着物を着て、遊女たちに囲まれ楽しそうに酒を仰いでいるのが九太夫である。その脇で扇子を広げ笑みを浮かべているのが由良之助、そして、奥の中二階で闇にまぎれるようにひっそりと酒を冷まして佇んでいるのは、身売りされ遊女となったお軽である。(小笠原a)
 
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1.07.3 密書と旅路

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「仮名手本忠臣蔵 七段目 八段目」
 
芳年 大判/錦絵 物語絵
出版:不詳、江戸
立命館大学ARC所蔵 arcUP1701
【前後期展示】.
 
■解説
 この作品は、上下で別れた構図で、七段目・八段目を描くが、1枚の料紙を使って、2場面を同時に摺ったもので、当時、購入後に上下を切って鑑賞したのである。
 七段目の方では由良之助が縁側に出て、顔世からの密書を読んでいたところ上下の二人に盗み読みされたのに気付く場面。この密書は息子である力弥から届けられ、敵討ちの企てにも触れられている急ぎの密書である。九太夫との酒宴を終え、燈籠の明かりのある縁側で密書を読んでいたのだが、笄が落ちる音に人がいるのに気づき、顔を上げると二階には遊女のお軽、足もとの縁の下には九太夫。九太夫は、未だに彼を疑い、駕籠に乗って帰ったと見せかけて、駕籠だけを送り出し、隠れていたのである。
 このとき由良之助はお軽に身請け話を持ちかける。三日なりと囲ったらあとは自由であると告げれたお軽は、夫の勘平のもとへ帰れると喜ぶのであった。
 一方、八段目では桃井の家老である加古川本蔵の妻・戸無瀬と娘・小浪が山科へ向かう道行の様子である。彼女たちは許嫁である力弥のもとを訪ねるために母娘二人で旅をしていた。 (小笠原a)
 
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1.07.4 由良助の本心

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「仮名手本忠臣蔵 七段目」
 
国政 大判/錦絵 物語絵
出版:明治5年(1872)5月 東京
立命館大学ARC所蔵 arcUP1803
【前後期展示】.
 
■解説
 この絵はお軽が身請け話を受けた直後の場面を描いたものである。抱え主と話をしてくると言って奥に入った由良之助と入れ替わるように、今度はお軽のもとに兄の平右衛門がやってくる。お軽は先ほど由良之助の密書を覗き見したこと、その後身請け話を受けたことを話し、それを聞いた平右衛門は、由良之助が身請けすると申し出たのは、密書に書いてあった機密情報を外部に漏らさないためで、お軽をその後殺すためだと思いつく。それならば自分が先に妹を殺し、その功をもって敵討ちに加えてもらおうと考えた彼は、断腸の思いで自らの手によってお軽を殺そうとする。お軽に怖がられて近づくことのできない平右衛門は、両刀を抜き、お軽を安心させなければならなかった。
 一方、この様子を座敷の中からじっと覗っているのは由良之助。
 お軽は平右衛門から、父の与一兵衛が人手にかかって死に、夫の勘平も誤解から自害して果てたと聞き、彼女も覚悟を決めて、おとなしく兄の手にかかろうとするところに、由良之助が現れて止める。由良之助は平右衛門の忠義に感心し、敵討ちに加わることを許し、お軽には父と夫のためにも生きよと諭す。由良之助はお軽に刀を持たせ手を添えて床下をの九太夫を突き刺す。お軽の父を殺した定九郎は九太夫の息子であるため、彼女が九太夫を成敗することは一つの敵討ちをしたことになるのである。(小笠原a)
 
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1.08.1 母娘の道中

 「役者見立忠臣蔵」 「八段目」
 
春亭 間判/錦絵 物語絵
出版;文化7年(1810)頃 江戸
立命館大学ARC所蔵 arcUP2428
【前後期展示】.
 
■解説
 塩冶家の家老であった由良之助の息子力弥と、桃井家の家老である本蔵の娘小浪は許嫁の関係にあった。塩冶の家が取潰しになったため、婚儀自体も白紙に戻り、なくなるはずであった。しかし、小浪はそれを嘆き悲む。そんな様子を見ていたたまれなくなった継母の戸無瀬は、何とかして娘との婚儀を再開しようと侍者も連れずに母娘二人きりで、鎌倉から大星親子が住む山科へ向かう。
  嫁入りの頼みをするということもあって、小浪の姿が印象的に描かれている。彼女は華やかな赤色の振袖を身にまとい、髪にもたくさんのかんざしが付けられ、可憐に美しい乙女として描かれている。力弥との婚儀の成就に向ける一途な意思が、美しい姿がより鮮明に感じ取られるのである。(小笠原a)
 
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1.09.1 婚儀の難航

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「仮名手本忠臣蔵」 「九段目」

貞信〈1〉 大判/錦絵 芝居絵
出版:嘉永((1850)頃 大坂
立命館大学ARC所蔵 arcUP3873
【前期展示】.
 
■解説
 舞台は京都山科の大星由良之助の邸である。雪の降る場面で、雪が効果的に用いられる。
 画面奥の縁側に座り、家の者たちと雪遊びをしているのが由良之助である。彼は祇園からの帰り道、雪を転がして大きな雪玉を作りながら戻る。その場面から、雪転しの段という。
 さて、力弥との祝言を切望する母娘二人はようやく彼らの屋敷に到着した。座敷に通された二人は、由良之助の妻お石と面会する。戸無瀬がお石に祝言を挙げさせたいと申し出ると、案の定お石は二人は釣り合わないからどうぞ他の人を探してくれと棄却した。戸無瀬は家の位など関係ないと反論するが、お石は、師直に賄賂を贈った桃井家臣と、最期まで師直に屈しなかった塩冶家臣では釣り合わないと言い放ち奥の間へ下がってしまった。長旅の末のこの結末に、小浪は泣き出し、前途を祝してくれた本蔵のもとへも申し訳なさで帰るに帰れず、母娘二人で自害しようとする。すると、表から虚無僧の尺八が奏でる親子の情愛を描いた曲「鶴の巣篭り」が聞こえてくる。
 画面中央に座るのは小浪、彼女に刀を突き付けているのが戸無瀬。緊迫した状況をこっそり隣の部屋から見守るはお石である。小浪は白地の縫箔を着ていることから、白無垢の伝統的な嫁入衣装を身にまとっている。そして、これは七段目でも、お軽と平右衛門に同じような構図が見て取れることに気付くであろう。一つ違うのは、画面左端に描かれた虚無僧であり、これが実は、道中、身をやつして妻と子を見守ってきた本蔵本人であったのだ。(小笠原a)
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1.09.2 虚無僧の正体

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「浮絵忠臣蔵」 「九段目」
 
国直 大判/錦絵 物語絵・浮絵
出版:文化8年(1811)頃 江戸
立命館大学ARC所蔵 arcUP3270
【前後期展示】.
 
■解説
 物語の続きはお石が自害しようとする二人を止めたことにつながる。彼女の待てという声に合わせて尺八の音色は止んだが、二人は自害をやめようとしない。そしてまた同じ音色が聞こえだす。再度待てと制止してようやく二人は自害をすることをやめた。お石は二人の熱い志を感じ取り、並々ならぬ覚悟に感服して息子の力弥と祝言を挙げさせようと申し出る。しかしそれには条件があった。その条件とは、塩谷の自刃のきっかけとなった本蔵の首がほしいと言うのであった。これもまたお石にとっての敵討ちで、憎むべき相手への復讐なのであった。この要求に母娘二人は途方に暮れる。
 そこへ、表の虚無僧が中へと入ってきた。編笠を脱いだ顔を見れば、本蔵本人であった。彼は放蕩している由良之助の息子である力弥には娘を嫁がせることはできない、この命差し出すことはできないと言って、小浪と戸無瀬を制し、お石を押さえつける。それに怒って飛び出してきた力弥の槍に脇腹を刺され、本蔵は動けなくなる。そこへ奥から出てきた由良之助が、本蔵は娘を結婚させるためにわざと力弥に刺されたのだと見破ったのであった。
 この絵では槍をもった力弥、それに刺される本蔵を中心に、父を止める小浪と戸無瀬、お石、そして由良之助の核となる人物がすべて描かれている。本蔵の首を載せるための台は見事に砕かれ、投げ捨てられた編笠と尺八が虚無僧の正体を物語っているのである。(小笠原)

 

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