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1.05.1 駆け落ちの果てに

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「仮名手本忠臣蔵」 「五段目」
 
貞信〈1〉 大判/錦絵(横) 物語絵
出版:不明、大坂
立命館大学ARC所蔵 arcUP3869
【前期展示】.
 
■解説
 勘平は自分が仕える主人の大事にお軽と「色に耽ったばっかりに……」恥じて、切腹しようとする。しかしお軽が制止し、ともに自分の実家へ帰ろうと提案し、駆け落ちした。お軽の実家では猟師として暮らしていた勘平だが、偶然にも元塩冶の家臣・千崎弥五郎と出会う。敵討ちを噂に聞いていた勘平は自分も連判に加わりたいと願い出るが、千崎もやすやすとは打ち明けられないため、主君の石碑建立の御用金を集めていることに隠して暗に討ち入り計画を知らせたのである。
 お国は、盗賊となった斧定九郎に、お軽を売った五十両を強奪され
殺されようとしている義父与一兵衛が描かれる。(藤井a)

1.05.2 残酷すぎる運命

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「仮名手本忠臣蔵 五段目」 
 
国貞〈2〉 大判/錦絵(横絵) 物語絵 
出版:嘉永4年(1851)頃 江戸
立命館大学ARC所蔵 arcUP1990
【後期展示】.
 
■解説
 雨降る夜の山崎街道での二場面を描く。元塩冶家の家老で師直に寝返った斧九太夫の息子・斧定九郎が唯一登場するのがこの五段目である。
 ある老人が夜道を急いでいたところ、怪しげな男が追いかけて来て物騒な道の連れになろうと言う。しかしこの男、今は山賊に堕ちた定九郎の目的は老人の持つ財布であった。「こなたのふところに金なら四五十両のかさ。縞の財布にあるのを。とつくりと見つけてきたのぢや。貸して下され。男が手を合はす。」と老人の懐から無理やり縞模様の財布を引きずり出す。たった一人の娘とその婿のために要る金、親子三人が血の涙を流すほど大切な金だから助けてくれと老人が必死に頼むのも聞かず殺して死骸は谷底に蹴落としてしまったのである。実はこの老人はお軽の父・与一兵衛で、お軽の身売り先である祇園一文字屋からの帰りであった。
 手前にお軽の父・与一兵衛が定九郎に襲われて財布を奪われる様子、奥には雨で火縄銃が湿気ったので火を貸してもらおうとする勘平と、山賊かと思い身構える千崎弥五郎を配置している。しかしながら現行の歌舞伎では与一兵衛と定九郎の場面はかなり原作と違った内容である。仮名手本忠臣蔵原作では、この図のように山賊へ身を落とした定九郎が与一兵衛を追いかけて財布を奪った後殺害するが、現行の歌舞伎では稲垣の前に座り込んだ与一兵衛を刺し殺している。定九郎の言葉は「五十両……」のみとなっており、与一兵衛との掛け合いはない。
 この図で注目すべきは人物の表情である。与一兵衛が持っていた金はなんと娘の身売りを条件に勘平のために手に入れた大金であり、「親子三人が血の涙の流れる金」であった。必死に助けを乞う与一兵衛の表情と冷酷無比な定九郎の表情がリアルに描かれている。一方で早野勘平・千崎は手前の二人に比べてあまり表情を描き出していない。これは二人が互いの顔を見てあまりの偶然に驚いたためであろう。(藤井)
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1.05.3 夜の山の敵討ち

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「浮絵忠臣蔵」  「五段目」
 
国直 大判/錦絵 物語絵
出版:文化8年(1811) 江戸
立命館大学ARC所蔵 arcUP3266
【前後期展示】.
 
■解説
 か弱い老人から五十両を手に入れ、してやったとほくそ笑む定九郎。その後ろから手負いの猪がこちらへ一目散に駆けてきた。とっさに木にしがみついてやりすごし、一息ついたその瞬間、定九郎の胸を鉄砲玉が貫いた。悲鳴を上げる間もなく絶命してしまう。この図はまさに、定九郎が木にしがみついた瞬間を描いている。
 暗闇の中で勘平が討ち取った獲物を探ってみると、実は猪だと思っていたのは人、つまり定九郎だったのである。大変なことをしてしまったと抱き起こすと定九郎が与一兵衛からつい最前奪い取った財布に触れた。中には自分の求めていた五十両が入っているではないか。これは天のお与えになったものと思い、財布を持って一目散に帰宅するのであった。なお、木に上るのは、舞台でみれば演出となるが、現行の舞台では行なわれない。
(藤井a)

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