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1.01.1 物語の始まり

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「仮名手本忠臣蔵」  「大序」
「高ノ師直 市川左団次」「塩冶判官 中村翫雀」「足利直義 市川子団次」「顔世御前 嵐大三郎」 「石堂右馬元 尾上菊五郎」「桃井若狭之介 坂東彦三郎」 
 
猛斎 大判/錦絵 役者絵 
明治8年(1875) 3月19日東京・新富座
「天満宮国字掛額」
立命館ARC所蔵 arcUP5405-5407
【前後期展示】.
 
■解説
  「大序」とは歌舞伎の第一幕のことを言うが、現在では一般的に大序といえば「仮名手本忠臣蔵」一段目「鶴岡兜改めの段」を指している。開幕前、口上人形が役人替名を述べる際に、登場人物たちは人形身として皆下を向いて人形のように動かず、名前を呼ばれて初めて息を吹き返したように動き始める。これは原作である人形浄瑠璃へ敬意を払い、形を残したものであるとされる。
 
 将軍足利尊氏の命によって弟直義は討ち取った新田義貞の兜を奉納するため、鎌倉鶴岡八幡宮に参詣していた。そこには足利氏の執事職である高師直、直義の饗応役として桃井若狭之助と塩冶判官、その妻顔世御前が控えている。四十七の兜の中から新田義貞のものを選び出す大役を任された顔世は、見事蘭奢待の香る新田義貞の兜を選び出し、その役目を果たしたのだった
 
 なお、この時の興行は、「菅原伝授手習鑑」と「仮名手本忠臣蔵」をテレコで上演した作品のため、「天満宮」(菅原)「国字」(仮名)という外題となっている。(藤井a)
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1.01.2 師直の横恋慕

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「大序」
「高の師直 坂東亀蔵」「かほよ御せん 沢村田の助」
 
豊国〈3〉 大判/錦絵 役者絵
上演:文久2年(1862)3月17日江戸・中村座
興行名:「仮名手本忠臣蔵」
場名:「大序 鎌倉鶴ヶ岡の段」
立命館大学ARC所蔵 arcUP1955
【前期展示】.
 
■解説
 仮名手本忠臣蔵のすべての始まりは、高師直から顔世御前への「恋」であった。この浮世絵は、人妻である顔世の美しさに惚れた師直が顔世に強引に付け文を渡す場面である。幕府の重役である師直の求愛に対して顔世は夫判官への影響を恐れて断るに断れない状況である。さらに師直から塩冶判官を殺すも生かすも顔世の心次第だと追い打ちをかけられ涙ぐむ。ここから人妻であっても自分のものにしようとする非常に傲慢で高圧的な師直の人物像が読み取れる。また、顔世が持つ色気と品格によって顔世の女性らしさ、男と女というはっきりした構図をみることができる。

 師直の横恋慕によって始まった物語は、様々な家を巻き込み、人間関係を狂わせていく。忠臣蔵物語は単なるお家騒動1だけではなく、「恋」を一つのテーマとして、それに翻弄される人間群像を描き出していると言えよう。(藤井a)

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1.01.3 若狭之助の無念

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「忠臣蔵 大序」
 
広重〈1〉 大判/錦絵(横) 物語絵
出版:弘化2年(1845)頃 江戸
立命館大学ARC所蔵  arcUP1173
【後期展示】.
 
■解説
 師直に強引に言い寄られ困惑する顔世の所へ、機転を利かせた若狭之助が割り込む場面である。二人の時間を邪魔されて苛立つ師直は誰のお陰でお前のような身分の低いものに俸禄があると思っているのだと口汚く若狭之助を罵る。あまりの侮辱の言葉に耐えきれず若狭之助は刀を手にかけ鞘口を握りしめるが、ここは神前。今すぐにも刃傷に及ぶところであったその時、「還御ぞ」の言葉とともに直義が帰館のため通りがかり、師直への無念を抱いたまま持ち越しとなった。ここで刃傷に及ばなかったことが二段目へと続く、家々を巻き込んだ復讐劇の始まりとなるのである。(藤井a)

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