1.09.2 虚無僧の正体

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「浮絵忠臣蔵」 「九段目」
 
国直 大判/錦絵 物語絵・浮絵
出版:文化8年(1811)頃 江戸
立命館大学ARC所蔵 arcUP3270
【前後期展示】.
 
■解説
 物語の続きはお石が自害しようとする二人を止めたことにつながる。彼女の待てという声に合わせて尺八の音色は止んだが、二人は自害をやめようとしない。そしてまた同じ音色が聞こえだす。再度待てと制止してようやく二人は自害をすることをやめた。お石は二人の熱い志を感じ取り、並々ならぬ覚悟に感服して息子の力弥と祝言を挙げさせようと申し出る。しかしそれには条件があった。その条件とは、塩谷の自刃のきっかけとなった本蔵の首がほしいと言うのであった。これもまたお石にとっての敵討ちで、憎むべき相手への復讐なのであった。この要求に母娘二人は途方に暮れる。
 そこへ、表の虚無僧が中へと入ってきた。編笠を脱いだ顔を見れば、本蔵本人であった。彼は放蕩している由良之助の息子である力弥には娘を嫁がせることはできない、この命差し出すことはできないと言って、小浪と戸無瀬を制し、お石を押さえつける。それに怒って飛び出してきた力弥の槍に脇腹を刺され、本蔵は動けなくなる。そこへ奥から出てきた由良之助が、本蔵は娘を結婚させるためにわざと力弥に刺されたのだと見破ったのであった。
 この絵では槍をもった力弥、それに刺される本蔵を中心に、父を止める小浪と戸無瀬、お石、そして由良之助の核となる人物がすべて描かれている。本蔵の首を載せるための台は見事に砕かれ、投げ捨てられた編笠と尺八が虚無僧の正体を物語っているのである。(小笠原)

 

参考資料

文化デジタルライブラリー (http://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/ 2014/11/7取得)

歌舞伎手帖 (項目:忠臣蔵)

中村一基 「仮名手本忠臣蔵』のドラマツルギー - 「心底」に憑かれた者たちの攻防戦 -」、岩手大学教育学部附属教育実践研究指導センター研究紀要 第7号 pp. 1-13、1997