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1.10.1 義平の志

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「浮絵忠臣蔵」 「十段目」
 
国直 大判/錦絵 物語絵・浮絵
出版:文化8年(1811)頃 江戸
立命館大学ARC所蔵 arcUP3271
【前期展示】.
 
■解説
 この絵は十段目、舞台は堺にある廻船問屋の天河屋である。そこの店主は天河屋義平という男であるが、彼はもともと塩冶と親交のある商人であったため、由良之助たちの仇討のために必要な武器の手配を手伝っていた。この計画が外部に漏れぬよう、義平は九太夫の抱え医師であった了竹の娘で、妻である園さえも実家に帰してしまう。奉公人にもすべて暇を出し、息子の由松と丁稚の伊吾と三人で暮らしていた。最後の武器の輸送が明日に迫った日、舅の了竹がやってきて、離縁状を書かされる。これで九太夫の息のかかった者とは別れることにしたのである。
 その夜、突然大勢の捕手がやってきて、由良助らに武器を密輸する罪によって義平を捕えようとする。彼はもちろんそんなものは知らないという態度をとる。しかし、証拠と言って捕手によって運び込まれた長持は、確かに由良之助らに送る武器を入れていたものであったため、義平は慌ててその長持の上に座り込んだ。捕手らは息子の由松を人質に義平に迫るが、彼は決して話すまいと知らぬ態度を突き通すのであった。
 この絵は左右に奥行きを持って描かれ、突出部分が迫ってくるような迫力を感じさせる。長持に乗った義平の表情はいかにも険しいもので、どっしりと構えている様子がうかがえる。画面中央の天河屋入口付近にいる捕手の片手には息子由松、もう一方には刀が握られ、彼らの攻防がありありと感じられるのである。(小笠原)
 
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1.10.2 忠義と恩返し

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 「仮名手本忠臣蔵 十段目」

英泉 大判/錦絵 物語絵・浮絵
出版:天保前期(1830~1835)頃、江戸
立命館大学ARC所蔵 arcUP3512
【後期展示】.
 
■解説
  本作も遠近法(浮絵)を用いた構図である。義平の宅を描く右側の遠近感が弱いが、左側は、別場面を遠近法を強調して描いている。
 大星らへの荷担を追求された義平は、「天河屋義平は男でござる」と言い放って、人質に取られた息子を奪い返し自らの手にかけようとした。すると長持から声が聞こえ、なんと中から由良之助が現れ、捕手は由大星の同士たちであった。大星らは義平が信頼できるかその心を疑ったのであり、そのことを深く謝った。そして義平にそばを振舞ってもらうため、奥の間へと入っていつた。
 そこに、義平の妻園が帰ってくる。お園は親了竹が義平に書かせた離縁状を差し出し、了竹と親子の縁を切るからそばに置いてほしいと頼みに来たのであった。しかし、義平は離縁状を突き返し、お園を閉め出してしまう。残された園が自害覚悟し天河屋を離れようとした時、覆面の大男が現れ、園の髷を切り、櫛や懐のものを奪って去ってしまった。
 それに気付いて駆出す義平。とそこへ大星らが表に出て、別れの置土産として包みを一つ差出す。義平が中身は、園の切られた髷や離縁状が入っていた。髷を切ったお園は尼であり、他へ嫁入も不可能。義平と一緒に暮らしても夫婦とは言えず、また髪が結えるようになったら再度夫婦の縁も結べばよいという由良之助なりの配慮であった。この心遣いに二人は深く感謝するのであった。(小笠原a)
 
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