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1.03.1 家老としての配慮

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「忠臣蔵」 「三段目」
 
広重〈1〉 大判/錦絵(横) 物語絵
天保前半(1830~35)頃
立命館大学ARC所蔵 arcUP4647
【前期展示】.
 
■解説 
 師直とその家来・鷺坂伴内は本蔵が先日の事件の報復にやって来たのだと身構えるが、なんと本蔵は巻物など様々な進物を差し出してきた。自分の主人が直義饗応役を務めることができたのも全て師直様のお取りなしによるものであると丁重に挨拶したのである。二段目の最後、本蔵が家族にも黙って夜中に馬を走らせたのは、賄賂を渡すことで師直と主人若狭之助が大事にならぬようにするためであったことが明らかとなる。前日に松を切って主人に報復を勧めたのも、実は松を切ることで刀にヤニを付け、抜きにくくしたとされている。まだ若く、少々短気な主人の性格を熟知した上で、問題をうまく収められるように先手を打って行動した家老・本蔵は只者ではない人物である。しかし、この計らいによって後に師直の矛先は若狭之助から判官へと向かい、物語の中心は桃井家から塩冶家へと舞台を移していく。(藤井)

1.03.2 標的の転換

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 「仮名手本忠臣蔵 三段目」
「おかる 大谷友松」「早の勘平 実川延若」「本蔵 関三十郎」「伴内 中村仲助」「師直 市川小団次」「判官 市村家橘」
 
芳滝 大判/錦絵(横) 役者絵・上方絵
出版:慶応1年(1865)、大坂
立命館大学ARC所蔵 arcUP2887
【後期展示】
 
■解説
 右側にはお軽・勘平・伴内、左側にははなだ色の大紋を着た師直が判官に詰め寄る場面が描かれている。 
 新しく建てられた御殿には直義をもてなすため、師直や判官、若狭之助をはじめ役人や武家が参上する中、顔世の腰元おかるは師直宛の返事が入った顔世の文箱を携えて御殿へ来ていた。先日の若狭之助と師直の対立を考慮し、顔世は返事を書くつもりは無かったのだが、判官の家来早野勘平に逢いたいお軽が無理を言って返事を書かせたのである。この文箱を判官へ渡すよう伝えると、門内より勘平を呼ぶ声がする。勘平が去ると入れ違いでやってきたのは鷺坂伴内である。先ほどの声は伴内のしわざであった。お軽に横恋慕している伴内が口説くが、今度は伴内を呼ぶ声によって仕方なく去るのだった。そして現れた勘平とお軽、恋仲の2人は逢瀬のため人気のない場所に消えていくのであった。しかし後にこの軽率な逢瀬が二人を苦しめることになる。
 
 御殿では若狭之助がおのれ師直真っ二つと刀に手をかけ師直を待っていた。しかし師直は若狭之助を見るなり鶴岡八幡宮での過言を詫びる。本蔵の裏工作を知らない若狭之助は低姿勢な謝罪に拍子抜け、刀を抜くことができず大事になることはなかった。本蔵も賄賂が効いて一安心する。プライドの高い師直が機嫌を損ねていたところに塩冶判官が顔世からの返事を渡すが、そこには師直を拒絶する和歌が書かれていた。嫉妬と怒りで判官を井戸の中の鮒に例えて笑うなど悪口雑言を浴びせる場面である。
 
 この芳滝の図では二つの場面を斜め半分に分けて描くが、登場人物たちが皆右を向かせることで自然に右から左の場面へと目を移すことができる。二段目の芳滝の図でも右を向かせることが多い。(藤井)
 
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1.03.3 避けられぬ事件

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 「仮名手本忠臣蔵 三段目」
 
国芳 大判/錦絵 物語絵
出版:安政1年(1854)11月 江戸
立命館大学ARC所蔵 arcUP1195
【前期展示】.
 
■解説
 師直の八つ当たりな暴言に耐え切れず、ついに判官は師直の眉間目がけて斬りつける。さらに斬りかかるのを師直が逃げる中、控えていた本蔵が判官を押しとどめる。御殿中がこの刃傷に騒然となった。若狭之助と師直の対立は本蔵の事前の賄賂によって避けられたものの、判官と師直の対立は本蔵の予期せぬ出来事であった。また本蔵が判官を抑えてしまったことで、師直は生き延び、若狭之助中心の舞台から塩冶判官と家臣たち、そして加古川家を巻き込んだ騒動へと発展していく。
 通称「喧嘩場」とも言う。(藤井)

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