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1.02.1  動き始める人々

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「仮名手本忠臣蔵 二段目」
「となせ 中村千之助」「力弥 片岡我当」「小なみ 実川延三郎」「若狭之助 市川滝十郎」「本蔵 中むら雀右衛門」
 
芳滝 大判/錦絵(横) 役者絵
出版:慶応1年(1865)・大坂(見立)
立命館大学ARC所蔵 arcUP2886
【後期展示】.
 
 ■解説
 二段目は現行の歌舞伎では上演されないが、三段目へ続く背景と、九段目の伏線となる小浪と力弥の恋が描かれている重要な場面である。特に桃井家の家老、加古川本蔵の動きに注目する。
 
 翌日、桃井家では当主の若狭之助が高師直に侮辱され、口論した事件が噂になっていた。桃井家の家老である加古川本蔵は家の不穏な空気を感じ、それをいさめる。そこへ塩冶判官の国家老である大星由良之助の息子・力弥が判官の口上を伝えるために参上した。この力弥と本蔵の娘・小浪は許嫁の関係である。本蔵と妻・戸無瀬は気を利かせて小浪に力弥の口上を受け取らせようとするが、力弥に見惚れて返事もできない。力弥が帰った後、若狭之助は明日師直を斬るつもりだと本蔵に打ち明けた。家老としては反対する立場だが、「サア殿まつこの通りにさつぱりと遊ばせ/\」と松を切り捨てて逆に賛成してしまう。若狭之助が奥に入ると、馬に乗り、家族の制止も聞かずに颯爽とどこかへ駆け出していく。この本蔵の真意は三段目で明らかとなる。
 
 ここでは力弥と小浪の様子を戸無瀬が襖の影から見守る場面を手前に、本蔵の松切りの場面を奥に描いている。小浪の少し子供っぽさが残る初々しい恋心と好青年力弥、大序のかほよと師直の大人の恋愛に対して、若い二人の美しい恋が描かれている。(藤井)

1.02.2 揺れる心、固まる決意

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「仮名手本忠臣蔵 二段目」
「桃井若狭之助 実川延三郎」「となせ 坂東寿太郎」「加古川本蔵 中村七賀助」「小なみ 尾上多賀之丞」「大星力弥 中村福助」
 
芳滝 大判/錦絵 役者絵
上演:明治7年(1874)頃 大阪・京都 
「忠臣いろは文章」ヵ
立命館大学ARC所蔵 arcUP2383
【前期展示】.
 
■解説
 同じく、二段目の(力弥使者の段)(松切りの段)二つの場面を描いたものである。
本来の歌舞伎では力弥と小浪が対面しているのを、芳滝は小浪が力弥を流し目で見上げる上下配置にしているのが二段目を描く浮世絵の中では珍しく、印象的である。こうすることで芳滝は少し色気を纏った微妙な年代の恋を描き出したのだろう。
 師直を斬る決意を打ち明けるという真剣なシーンの中、松を切った本蔵に満足し笑みを浮かべる若狭之助にしたことも面白い。また5人の大きさはほぼ同じにも関わらず、奥行きがあるのは建物の間取り配置をコの字で立体的に演出しているためである。
 この2枚はどちらも芳滝によってまったく同じ場面が描かれた浮世絵だが、こちらのほうがより変わった視点で描かれている。(藤井a)

1.02.3 松斬りの庭

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 「仮名手本忠臣蔵 二段目」
 
北斎 大判/錦絵 物語絵
出版:文化3年(1806)頃 江戸
立命館大学ARC所蔵 arcUP1716
【後期展示】.
 
■解説
 北斎は遠近法を駆使した風景画を得意とし、またその中に何気ない日常生活やちょっとした遊び心を忍ばせることが多かった。
 奥の方に見えるのは鳥居と2人。浄瑠璃集冒頭「空も弥生の。たそかれ時。桃井若狭之助安近の。館の行儀掃き掃除。」より、二人は掃き掃除をしていると思われる。p.169・9行目「刀の役目弓矢神へのおそれ。」とあり、解説には、「弓矢の道の守誰神、即ち軍の神。伊勢貞丈は『軍神問答』に「問云、軍神と武神の弓矢神と差別如何、答云、武道を弓矢の道と云、武士を弓取と云、弓矢の道は軍の為也、其称は三つにかはれども、其実は差別なし」という。貞丈によれば、弓矢神は大和国三輪大明神、常陸国鹿島大明神、下総国香取大明神の三神であるが、源氏の祭神八幡大菩薩を軍神とする考え方が一般的であった。」とある。()

1.02.4 小浪と力弥 初々しい恋心

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「仮名手本忠臣蔵 二段目」 
 
国貞〈2〉 大判/錦絵 物語絵
出版:嘉永4年(1851)頃 江戸
立命館大学ARC所蔵 arcUP1987
【前期展示】.
 
■解説
 桃井若狭之助家に判官の使者として力弥が遣わされてきた。本蔵や母・戸無瀬は力弥に惚れている娘・小浪のため、持病を理由に小浪に力弥の口上を受け取らせる。力弥は明日午前4時頃に登城する旨を伝えるが、流れるような力弥の言葉やその態度に見惚れてしまい返事もできないほどである。
 図からは、恥ずかしさのあまり力弥を直視できない小浪の様子が伺える。また、隣のふすまの影から娘を見守る母の姿がある。

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