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5.2.05 忠臣蔵ガイドブック

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 『忠臣蔵 その解説』
原題:Chushingura : An exposition 
塩谷栄(著)
出版:1940年(初版)
立命館大学ARC所蔵
【後期展示】. 

■解説
 英文学者である塩谷栄による、史実としての忠臣蔵と『仮名手本忠臣蔵』、両方を解説するガイドブックともいうべき著書。扉には、紀州徳川家第16代当主・徳川頼貞への献辞があり、事件のあらましと『仮名手本忠臣蔵』各段の要約を行っている。
 序文では、この本を執筆した理由について、日本人の精神を知る良い資料である忠臣蔵に関する本は多くはなく、不十分である、という感慨が執筆の背景にあったという主旨を述べている。さらに、忠臣蔵が海外の人々にも広く認知されてきたため、認識の間違いを正す時期にあるとして、明治時代のジャーナリスト・福本日南の『元禄快挙録』をもとに史実としての忠臣蔵についてまとめたとも述べている。

 なお、和泉屋市兵衛版、広重〈1〉の「忠臣蔵」16枚組から、「両国橋引揚」「大序」「四段目」「八段目」が複製され折込まれているが、どちらかというと主要な場ではなく、これらの段を選んだ理由は不明。(川内a)

5.2.06 ドナルド・キーンの『仮名手本忠臣蔵』

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 『忠臣蔵』
原題:CHUSHINGURA : THE TRASURY OF LOYAL RETAINERS
ドナルド・キーン(訳)
出版:1971年
個人蔵
【後期展示】.

■解説
 このキーンによる翻訳は、文学作品の翻訳を促進するユネスコの取り組みにおいて、『仮名手本忠臣蔵』を英語として読みやすく、なおかつ正確に翻訳したものとして認められた。
 ディキンズや井上十吉といった従来の翻訳と同じように、浄瑠璃本を底本としている。訳文を比較してみると、井上訳がよく踏まえられていることが分かる。従来の翻訳とは異なり挿絵が一切ついていないが、読者のイメージを喚起するよう動詞の選択に工夫が見られる。
 また、『仮名手本忠臣蔵』を、日本庭園や禅に代表される「我慢」や「抑制」といった日本文化のステレオタイプとは逆の、「豪華」と「色彩」、「暴力への欲求」が見られる作品として捉えている点は、従来の認識と異なっていると思われる。
 なお、献辞には、この書を三島由紀夫に捧ぐ、とある。(川内a)

5.2.07 西洋演劇になった忠臣蔵

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 『忠義』
原題:The Faithful
ジョン・メイスフィールド(著)
1915年初版(展示品は初版復刻版)
個人蔵
【前・後期展示】

 
■解説
 船乗りとしての経験を活かした詩作により名声を得ていたジョン・メイスフィールドによって執筆された、忠臣蔵の戯曲としての翻案。初演はBirmigham Reportory Theatreで、1915年に行われた。1919年にはニューヨークで上演され、1920年には小山内薫によって日本へ逆輸入され、築地小劇場と明治座で上演された。1930年代に再びニューヨークで上演されている。
 メイスフィールドの代表的な詩作と比較すると大成功とは言えないものの、劇評や観客の入りなどからは好意的に受けとめられていたことが分かる。
 劇中、相手を侮辱する行為としてブーツの紐を結ばせるところなどにはミッドフォードの影響が見られるが、切腹事件に多く筆を割いた彼とは異なり、『仮名手本忠臣蔵』と同じように、メイスフィールドは討入りを果たした四十七士たちの切腹を描かなかった。
 事件の発端を横恋慕から領土問題へと転換し、客人への殺意を疑われて浅野がやむなく刀を抜く、と変えている点が目を引く。(川内)

5.2.08 浮世絵の主題としての「忠臣蔵」

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 『浮世絵ガイド そしてその主題 274の挿図とともに』
原題:A Guide to JAPANESE PRINTS and Their Subject Matter With 274 Illustrations
バジル・スチュワート(著)
1920年初版(展示品は1922年版復刻版)
個人蔵
【前期展示】

■解説
 本著は、1920年に出版された同タイトルの浮世絵コレクターズガイドの増補改訂版である。Timesの書評によれば、1920年版はロンドンで出版されたものの瞬く間に売り切れてしまい、本書は待ち望まれた増刷分であった。さらに、新たに挿図や解説が加えられ、1920年版よりも充実した内容となっている。
 この浮世絵について幅広い内容を取扱う380頁あまりのガイドブックなかで、「忠臣蔵」は60頁ほどの大部を割いて説明されている。冒頭では、日本でもなじみのある「忠臣蔵は歌舞伎の独参湯」という現象を説明していて興味深い。
 北斎・広重・勝川派・歌川派・国貞といった順に絵と解説を載せ、ガイドブックであるとともに浮世絵のカタログも兼ねていた。『仮名手本忠臣蔵』の芝居絵や物語絵だけでなく、遊女たちの生活を『仮名手本忠臣蔵』に見立てたものについても解説している。(川内)

5.2.09 アメリカ生まれの忠臣蔵

『四十七士の物語』
原題: THE 47 RONIN STORY
ジョン・アリン(著)
出版:1970年(展示品は2006年版)
立命館アジア太平洋大学図書館蔵
【後期展示】.

■解説
 著者であるジョン・アリンは、スタンフォード大学、ミシガン大学で日本語を学び、検閲官として戦後日本へ赴任し、日本映画史や歌舞伎についての論考がある。
本作は、紹介や翻訳ではなく著者による翻案である。
版が重ねられ電子版も販売されていることからも、よく読まれている作品であることが分かるが、おそらく欧米で現在もっともよく読まれている忠臣蔵関連書籍である。
松の廊下で切りかかられた吉良こそ真の犠牲者であったというスティーヴン・ターンブルの序文が載る。
忠臣蔵について語る際、必ずと言っていいほど吉良は悪役、浅野は哀れという内容であったのとは逆で、近年の学問的流れを反映したものと思われる。
心理描写に重きをおき、浅野が切りかかるまでの吉良と浅野の心理や、切腹覚悟の仇討に踏み切るまでの四十七士の心中に多く筆を割いている。(川内a)

5.2.10 フランス語版『赤穂浪士』

『赤穂浪士』 
原題:Les 47 Rônins Roman traduit du japonais par Jacques Lalloz, Philippe Picquier.
ジャック・ラローズ(訳)、大佛次郎(著)
出版:2007年
立命館アジア太平洋大学図書館所蔵
【後期展示】.

■解説
 この翻訳は、平成1415年度の日本政府による近・現代文学の翻訳を促進するJLPP事業の第一回の助成によって出版された。ここで翻訳された『赤穂浪士』は、大佛次郎による1929年の作品で、現在討入りをした四十七士を「赤穂浪士」「浪士」と呼ぶのは、この小説の影響によると言われる。
 翻訳者のラローズは、パリ大学で日本語を習得し、京都大学で比較文化について学んだのち、現在も近現代作品の翻訳を多く手がけ、京都大学でフランス語を教える。(川内a)

5.2.11 英語教材忠臣蔵

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『四十七士 ある日本の侍の話』
原題: 47 Ronin A Samurai Story from Japan
ジェニファー・バセット(著)
出版:2013年
立命館大学図書館所蔵
【後期展示】.

■解説
 著者は日本研究者ではなく、英語教育の専門家である。英語初学者でも読めるようになっており、本文を読み上げるCDも付属している。
書き出しは、47士の物語は日本では有名だが、300年も前のことなので事実は失われてしまった、ここで語るのはその真実の物語…という調子で始まる。
語学教材として初歩レベルに設定されているため非常にわかりやすいものの、その反面、使用できる単語や文章の長さが規定されているために物語をかなり単純化している。
浅野や吉良が勅使の接待の役割を担っていたことは省略し、単に礼儀作法の師匠と弟子という設定にしていることなどは、その一例である。(川内a)

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