染色型紙プロジェクト > キョーテック所蔵型紙の解説

16.11.01
キョーテック所蔵型紙の解説

 竹は、日本の日常生活の道具を作るために古くから使用され、祭祀にも欠かすことのできない植物です。現在も正月には門松で新年を祝い、七夕には竹に願いごとを書いた短冊で飾りつけをします。また、竹は生命力も強いため、松・梅とともに「歳寒三友」とされる縁起の良い植物です。

 生活に身近であり、縁起の良い竹は、おのずとデザインにも繰り返し使われています。きものや漆器、陶磁器、家紋など種々の美術工芸品に竹が登場します。おもに布地の染色に使用された型紙にも竹がモチーフとして頻繁に確認できます。そこで、キョーテックコレクションの中から竹がモチーフとして利用されている型紙をいくつかご紹介したいと思います。

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「竹に縞」
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 最初にご紹介する型紙は、竹と横縞を交互に並べて市松文様のように構成しています。竹は、まっすぐ伸びることから型紙では縞文様としてよく利用されているように思いますが、この型紙はそこへ一工夫を加え、市松文様になるように構成されています。この型紙は、「突彫」と呼ばれる鋭く尖った刃を型紙にあてて彫り進める技法と「錐彫」とよばれる半円形の彫刻刀を回転させて小孔を彫刻する技法が使用されていると考えられます。

 横縞の非常に細い線を型紙が切れてしまわぬよう彫刻されているところからも技術の高さがうかがえます。また、竹はデザインとして簡略化されていますが、節の形や効果的な線や点を含むだけで一目見て竹であると判断できる点にも面白さを感じられます。

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「竹に青海波」
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 二枚目の型紙は、大きく竹が配されていて、先ほど紹介した直線的なデザインとは異なり、しなる竹が表現されています。大きく配された二本の竹は、市松文様と麻の葉文様になっています。市松文様は、背景の青海波(扇形)とともにかすれた様に彫刻されていて、絣織の雰囲気を出すように彫刻されたと考えられます。本来、絣織は布地を織る段階で文様がつくられますが、型紙の彫刻を工夫することにより、染色でも絣風に仕上げることも可能でした。絣風の型紙も頻繁に制作されていたようなので、絣文様の人気がうかがえます。

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「竹に松」
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 最後にご紹介する型紙は画面中央に竹が大きく置かれ、松が周囲に配されています。この型紙は遠目から見ると竹と松のデザインであることしかわかりませんが、近づいてみると、驚くほど細かな文様が密集していることがわかります。背景は網目文様になっていて、竹の輪郭は、小さな小孔によって形作られています。竹の内部もまた非常に工夫が凝らされていて、七宝文様と縞で構成されています。近づけば近づくほど、その細かさに目を奪われるのではないでしょうか。なお、竹の輪郭と内部は全て「道具彫」と呼ばれる、文様の形に整えられた彫刻刀を使用する技法によるものです。

 型紙に近づいていくと、一突き一突きの彫刻を重ねて一つのモチーフが完成していく様子を想像してみたくなりませんか。一見すると大胆なデザインに見えますが、近づくにつれ大胆さの中にも繊細さや技術の高さが垣間見える型紙です。

 キョーテックコレクションから竹をモチーフに使用した型紙をいくつかご紹介しました。竹は本来ならば空へ向かって高く伸びますが、型紙は大きさに制限がありますので、竹の先端はほとんどが省略されるように鋭く不揃いになっています。こうした表現も竹ならでは、なのかもしれません。

※画像、記事の無断転載を禁止します。
(c) 2016 KYOLITE Co.,ltd. Mizuho Kamo
株式会社 キョーライト

 

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