雨が降れば雨傘、日差しの強い日には日傘をさす人もあり、傘は日常生活で欠かすことのできないものの一つですね。雨具としての傘は、鎌倉時代の『一遍上人絵伝』にも描かれていて、江戸時代には紙張りのものが登場したと言われています。また、遊郭の太夫が道中をする際、定紋をつけた長柄傘も欠かすことができないもので、その様子を描いた絵画資料も残っています。
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こちらの絵は合羽摺(かっぱずり)と呼ばれる技法によるものです。合羽摺は、紙によって防水性の高い型を作り、型の上から絵の具を塗って彩色する方法です。とくに江戸時代の上方でよくおこなわれたと言われています。合羽摺の場合は型を使って直接彩色していたので、防染糊を使う技法とは少し異なりますが、布地を染める型紙と非常に似た技法が絵画にも使われていました。
さて、傘は実用性もさることながら、その開いた形がデザインとしても魅力的だったようです。開いた傘は円の中に骨が放射状にのびていて、それがデザインとして利用されました。また、閉じた傘も二等辺三角形のようでもあり、この形もまたデザインとしても使われています。 型紙の中では、どのような傘のデザインが使われていたのか、いくつかご紹介したいと思います。
まずご紹介する型紙は、かさ尽くしです。頭にかぶる笠に加え、閉じた傘がさまざまな向きで配置されています。よくみると、扇も含まれています。 この型紙は、「錐彫」と呼ばれる半円形の彫刻刀を回転させることにより非常に小さな孔を彫刻して文様を形づくる技法と、「道具彫」と呼ばれる刃先がさまざまな形に整えられた彫刻刀を使用する技法、「突彫」とよばれる刃先が鋭く、薄く整えられた彫刻刀を使用する技法の三種類によって彫刻されています。一人の職人が複数の技法を使い分けて型紙を彫刻していたことがわかる例です。一つのモチーフの中にいろいろな技法が織り交ぜられていてデザインのアクセントにもなっています。
次にご紹介する型紙は、蝙蝠と開いた傘が全体に配されています。彫刻の方法は、傘が錐彫、蝙蝠は突彫によるものと思われます。傘は小さな孔が連なって直線や曲線を構成していますが、対照的に蝙蝠は横に彫り抜く直線の幅の違いで蝙蝠を構成しています。傘と蝙蝠では型紙を彫り抜く面積が異なるので、モチーフがより際立つようになっています。 また、蝙蝠と傘のモチーフを組み合わせることで「蝙蝠傘」を表していたのでしょう。遊び心が感じられるデザインです。
最後にご紹介する型紙は、開いた傘を下からのぞいたようなデザインになっています。型紙全体を埋め尽くすように、あちらこちらに向いた傘が配されています。こちらの型紙は、傘の柄を突彫により、他の部分は錐彫によって彫刻されたものでしょう。一見すると、無造作に傘が配置されているように見えますが、型紙は繰り返しのパターンのため、文様に偏りがあると、染めた時に一定の調子でバランスの悪さが見えてしまいます。そのため、文様の配置は型紙やその先の染め物としての完成度に大きく関わってきます。この型紙も型紙が彫り抜かれている部分と型紙が多く残っている部分とがバランス良く配されていますので、布地を染めた時も美しく染め上がっていたのではないでしょうか。
傘は今も昔も生活に欠かすことができないものなので、デザインとしても親近感を持つことができるのではないでしょうか。そして、デザインとして型紙に使われている傘を眺めていくと、様々な角度から傘を見つめていたのだと、当時の人々のものを見る視点の多様さに感心させられます。
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