9月とはいえ残暑が厳しい昨今ですが、少しずつ秋の気配が近づく頃でしょうか。
旧暦の9月9日は五節句の一つ「重陽の節句」で、「菊の節句」とも呼ばれます。もともと中国を起源とし、日本では平安時代に宮中の年中行事として菊の宴が催されました。また、菊は絵画や工芸作品を彩り、家紋としても用いられて古くからその存在を確認することができます。
江戸時代に入ると、菊の栽培や観賞が盛んになり、さまざまな品種が誕生しました。江戸時代後期には、動物や名所などを菊の花で象った「菊細工」が始まりました。菊を観賞する人々[歌川国芳「百種接分菊」国立国会図書館蔵]や菊細工の様子は、浮世絵にも描かれています。菊細工は菊人形のルーツともなり、現在も全国各地で催しが開かれています。庶民にも親しまれ、現在も身近な菊は、多くの型紙に用いられています。
図1の型紙は画面全体に大輪の菊が配され、真上や横から菊が表現されています。菊をモチーフとした紋には「裏菊」と呼ばれる菊の花を裏側から見た形を模しているものもあり、さまざまな角度から見た菊がデザイン化されています。
花弁は、半円状の彫刻刀を回転させて円形の孔を彫刻する錐彫が施されていて、繊細な手仕事が伝わります。また、茎の輪郭線はわずかですが曲線になっていて、細密な描写を型紙の中で表現したように見受けられます。
図2は「万寿(饅頭)菊」あるいは「光琳菊」と呼ばれる模様です。光琳菊に加えて薄も配置され、秋の風景を想起させます。画面全体の大部分が彫り抜かれていることや単純化されたデザインであることから、すっきりとして涼やかな印象を受けます。
光琳菊は、花の輪郭線のみを残して花弁が省略され、大胆にデザイン化された模様です。この模様は、江戸時代中期を中心に刊行された小袖の見本帳ともいうべき「小袖雛形本」にも掲載されていて、当時の人気をうかがうこともできます。
図1と2を比べると菊をモチーフにしながら、印象が異なります。さらに、紹介した菊模様はほんの一部で、まだまだ多くの種類があります。人々に親しまれ、さまざまな品種のある菊。ほかにどのような菊の模様があるのか、探してみても楽しいかもしれません。