麻の葉文様とは、麻の葉を象ったとされる文様で、正六角形に縦、横、斜めの直線を引いて構成されています。ただし、麻の葉からこの文様が作られたというよりはむしろ、既存の文様に対して、麻の葉に似ていることからこの名が付けられたと言われています。
江戸時代に広まった多色摺版画である錦絵をみてみると、女性の着物の裾や襟元、子供の産着などで麻の葉文様を数多くみつけることができます(図1)。とくに子供の産着は、子供の健やかな成長を願って麻の葉文様が使われたとも言われています。一方、女性の着物に描かれる麻の葉文様は、とくに若い女性の着物に描かれることが多く、若い女性向けの文様であったことが現存する錦絵からも伝わります。また、麻の葉文様の人気は、歌舞伎役者の影響もあったと言われています。しかし、江戸時代の生活風俗を記した『守貞謾稿』(天保8年起稿[1837])には「万字繋・麻葉等は不易の紋と云ふべし。」とあり、定番の文様として浸透していたことがわかります。現在も着物はもちろんのこと、インテリアデザインにも使われていて、私たちにとっても身近な文様といえます。
キョーテックコレクションには麻の葉文様が使われている型紙が約18,000枚中220枚ほど確認できます。さまざまにアレンジされていて、文様として親しまれていた様子がうかがえます。そこで、麻の葉文様が使われた型紙をコレクションから紹介していきます。
図2の染色型紙は、麻の葉の輪郭が円形に彫り抜かれていて、鹿の子文様(鹿の子の白い斑点に似ているため、名付けられたとされる「鹿の子絞り」から転じた名称)を表現しています。図2の型紙を拡大してみると、小孔の周囲にだけ輪郭線が残り、その他はきれいに切り取られていることがわかります。小孔の周囲には手彫りの微妙な「揺れ」もあり、味わいがあります。非常に細かな作業ですが、麻の葉文様が規則正しく配置されています。
図3も麻の葉鹿の子文様で表現されています。この型紙は、絞り染(布地を糸で括り、防染をして布地を染める方法)を忠実に再現しようとしている様子がうかがえます。遠目からみると、麻の葉が縦長にのびていて、かつ鹿の子文様の形にムラがあるように見えます。デザインとして不揃いのように見えますが、絞り染をしたときに生まれる独特の「しぼ」や染めの風合いを型紙により再現しようとしているのです。型紙を拡大してみると、鹿の子文様を円形にしていますが、輪郭線は途中で途切れ、内部には細かな点が彫刻されています。ほんの小さな点や線の途切れによって、遠目からは絞り染特有の染まり具合と似ているに見えるのです。このようなひと工夫や技によって、あたかも絞り染のような風合いを型紙で表現していた様子がわかります。
直線のみによって構成されるシンプルな麻の葉文様ですが、アレンジの仕方で何通りものデザインが生まれます。また、本来型紙を用いない染や織のデザインを型紙でどのように表現しようかとさまざまな工夫がなされていたことがわかります。
参考文献
喜田川守貞『近世風俗志(守貞謾稿)』岩波文庫 1999年
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