「小紋」とは、種々の細かな文様を布へ染め出したものを指します。染色型紙を用いた染めとして一番よく知られているのは、小紋かもしれません。一口に小紋と言っても、そのデザインはさまざまで、植物や幾何学文様、器物など多岐にわたります。今回は、「文字」のデザインにスポットをあて、キョーテックコレクションの中から紹介していきたいと思います。
小紋の染色型紙は、多くが「錐彫」によって製作されています。錐彫は、半円形の彫刻刀を回転させることによって小孔を彫る、型紙彫刻技法の中でも最も古いものの一つと言われています。
一枚目の型紙は、「干支」の文字が型紙全体に配されています。遠目からではわかりませんが、よく見てみると「子、丑、寅・・・」と文字が浮かび上がるように見えてきます。文字以外に型紙全体へ小孔が散らしてありますが、それぞれの文字は小孔の間隔を狭めて彫刻しているので、判読することができます。小孔の径はすべて同じ大きさだと思われますので、小孔が彫刻される間隔や位置の違いのみによってデザインが成立していると型紙です。
さて、あなたの干支はみつけられましたか?
次にご紹介する型紙は、「京」、「大坂」、「江戸」の文字が全体に配されています。江戸時代は、京都、大坂、江戸が三大都市でしたから、三都の文字入り型紙は、この他にも目にします。人気のあるデザインであったと推測されます。
この型紙は、二種類の彫刻刀が使用されていて、文字の部分は周囲よりも小さな径の彫刻刀が使用されたと思われます。一見無造作に文字が配置されているように見えますが、全体が同じように見えるよう、文字の位置や傾きなどが調整されています。「京」の字は少し丸みを帯びていて、漢字ですがやわらかい印象を与えてくれます。
最後にご紹介する二枚の型紙は、いずれも「寿」という文字をデザインに使用しています。「寿」は、慶事をことばで祝うことを意味するので、一目見て吉祥のデザインであることがわかります。また、「寿」という字は「かたち」そのものも特徴的なので、錐彫で簡略化して彫刻しても、「寿」という字であると判別できます。こうした点も型紙のデザインとして好まれた理由の一つかもしれません。
この型紙は、遠目から見ると幾何学文様が配置されているようにみえ、近づくと「寿」という字が浮かび上がるという、視覚的に楽しむことができるデザインです。
二枚目の「寿」の型紙は、杯が一緒に配置されています。すき間なく文字と杯が配置されていて、本当に気の遠くなるような彫刻作業であったと想像されます。小孔が密集して彫刻されていますが、不思議なことに、どの小孔も輪郭線を形作っていて、無駄な小孔は一つもありません。1ミリでも彫刻する位置がずれていたら文字や杯のデザインは壊れていたでしょう。寸分違わぬ位置に小孔を彫刻し続ける型彫り職人の技術が伝わる型紙です。
普段の生活で何気なく使っている文字。しかし、「線」で構成される文字を「点」に変えるとがらりと印象が変わります。また、小紋で表現することも文字を見応えのあるデザインとしてくれる工夫なのかもしれません。