「鶴は千年 亀は万年」として知られるように、鶴と亀は寿命が長いことから吉祥性のある動物として尊ばれ、さまざまな装飾に用いられてきました。古くは平安時代の『栄花物語』に鶴亀松竹の文様が登場し、美術工芸作品にも数多く登場します。
染色に使用された型紙にも鶴と亀はしばしば用いられています。キョーテックコレクションを探索してみると、現在までに鶴と亀が共に用いられる型紙は24枚、鶴のみは114枚、亀甲文様を含むものは340枚(亀のみは42枚)確認できています。やはり鶴と亀は、文様として親しまれてきたことが数の上からもよくわかります。それでは、鶴と亀の型紙を一部ご紹介したいと思います。
こちらの型紙は、折鶴に亀、松や梅、霞が表現され、めでたいデザインになっています。鶴と亀の輪郭線の幅は一定ではありません。それがかえって「手描き」の様にも、かわいらしくも見え、視覚的な効果を狙って彫刻されたと思われます。また、こちらの型紙は文様が崩れてしまわぬよう絹糸を使った「糸入れ」が施され、補強されていることもわかります。
次の型紙は、鶴と亀甲文様があしらわれています。六角形の文様は、亀の甲羅に似ていることから「亀甲文様」とも呼ばれ、亀を置き換えた文様としてもしばしば使用されます。亀甲文様は、六角形の幾何学文様でもあり、亀も表現するという二つの顔を持っているかのような文様です。
こちらの型紙の鶴は、輪郭線がはっきりと表現されているわけではないのですが、羽根が非常に細かく彫刻されていて鶴が羽ばたく様子をはっきり伝えていますし、亀甲文様も輪郭線はありませんが、長さの異なる細い直線を平行にならべることで亀甲文様を構成しています。
こちらの型紙は青海波文様の間に亀がひょっこり登場し、さまざまな方向に向いています。おそらく「突彫」(つきぼり) と呼ばれる先端が尖った非常に薄い小刀を上下に動かしながら彫り進める技法によるものです。等間隔に表現された波や手足や甲羅まで細かく彫刻された様子から型彫師の研ぎ澄まされた技術がうかがえます。デザインとしてもとてもかわいらしく、高い技術とデザインが融合した型紙と言えるのではないでしょうか。
最後にご紹介するのは「錐彫」(きりぼり)による型紙です。錐彫は、半円形の彫刻刀を使い、小孔を彫刻していく技法で、小孔が連なることによりさまざまな文様を表現することができます。こちらの型紙は一見すると、どのような文様が彫刻されているか細かすぎてわからないのではないでしょうか。よく目を凝らしてみると、「亀」の形と「寿」という漢字が見えてきませんか。それぞれいろいろな方向を向いているので、見つけにくいのですが、見つけてみると「なぞなぞ」を解いた時のようなすっきりした気持ちにもなります。
限られた面積の中に複数の文様を敷き詰めていくことは非常に難しく、均等に文様を散らしていかないと染めたときに反物全体のバランスが悪くなってしまうそうです。細かな文様を彫刻する技術も必要ですが、完成形を見通して彫刻を進めていく力も必要とされる型紙です。
鶴と亀は古くから知られる吉祥文様ですが、型彫師の技術やデザインに対する遊び心が加えられることによって、無限とも思えるアレンジが型紙の中に表現されています。