冬に空から降る雪は、冷たくて寒さを伴いますが、夏になって目にする雪や雪のデザインは涼しげで、暑さを和らげてくれます。夏には納涼の意味合いも込めて、雪の文様があしらわれた着物を見かけることもあります。
雪を象った文様としては「雪輪」や「雪持笹」などが有名でしょうか。雪輪は、雪の結晶を形にしたもので、六出あるいは八出の形をしています。また、雪持笹は笹の上に雪が積もっている様子をデザイン化しています。「雪持」とは木や葉に雪が積もっていることを指しますので、笹以外にもさまざまな植物で表現されています。
キョーテックコレクションには約18,000枚の型紙があり、雪をモチーフにした型紙を106枚確認しています。その中からいくつかご紹介しながら、目で涼しさを感じていただきたいと思います。
1枚目の型紙は、竹とうっすらと雪の積もった松が表現されています。松と竹は「突彫り」と呼ばれる技法によるものです。突彫りに使用される彫刻刀は、薄くて鋭いため、細い線や曲線の彫刻を得意としていて、絵画的な表現のできる技法です。非常に細い線で竹の筋や松葉が表現されています。一方、降り積もる雪は「錐彫」と呼ばれる技法によって彫刻されています。錐彫で使用される彫刻刀は、小さな半円形をしていて、それを紙にあてながら半回転させることにより小孔を彫刻します。小孔を散らすことにより、うっすらと積もる雪を表現しています。
2枚目の型紙は、雪輪と伏せた兎をモチーフにした型紙です。雪輪の中には、桜の花が散りばめられているように見えます。こちらの型紙は、兎と雪輪を錐彫により彫刻し、桜の花は「道具彫」によって彫刻されたと思われます。道具彫とは、彫刻刀の刃が、彫刻する形に整形されていて、渋紙に押し当てることにより文様を彫抜く技法です。桜の花弁一枚が彫刻刀の形であり、それを扇状に動かして彫刻することで桜の花が完成します。
一見、無造作に兎と雪輪が配置されているように見えますが、モチーフの位置やバランスを調整しつつ、細かな文様を彫刻する技術が必要な型紙です。また、錐彫により線が丸みを帯びていることもあり、全体にかわいらしい印象を与えてくれます。
最後にご紹介する型紙は、雪輪と千鳥、麻の葉文様があしらわれた型紙です。雪輪は、もともと雪をデザイン化した文様ですが、抽象化が進んだこともあり、装飾的な枠のように使用される作品が型紙に限らず数多くあります。この型紙も雪輪を枠にして、菊や桔梗、萩など秋草があしらわれています。また、麻の葉文様は縦横斜めの直線を組み合わせた文様なので、曲線の多いこの型紙の中で、アクセントにもなっているのではないでしょうか。
こちらは、錐彫により型紙を彫刻していますが、雪輪だけは周りよりも少し大きな径の大きな彫刻刀が使用されています。そのため、雪輪の輪郭が際立って見えます。これも型紙を製作する人々の小さな工夫といえるでしょう。
雪をモチーフにしたデザインをみていくと、雪の結晶を形にしたり、植物に積もる雪をデザインとして昇華させたりする、豊かな創造力を感じることができます。
参考文献
今橋理子『兎とかたちの日本文化』2013年