京都の北野天満宮では、梅苑が例年2月初旬から公開され、25日には「梅花祭」が開催されます。梅の花は、冬の終わりとともに春の訪れを感じさせてくれます。そして、梅が放つ香りや清楚な花は、古くから人々に親しまれ、『紅白梅図屏風』(MOA美術館蔵)など美術工芸作品や和歌など文学の中にもたびたび登場します。
例として、小袖(着物)を挙げてみましょう。着物のデザインを知る資料として、「小袖雛形本」があります。「小袖雛形本」は、江戸時代中期を最盛期として刊行された着物の見本帳です。着物の背面図にデザインを描き、そのデザインにふさわしい色や染織の方法、描かれたモチーフの名称が背面図の隣に添えられる形式が一般的でした。「小袖雛形本」にもまた、梅の花をモチーフとした着物のデザインが数多く登場します。そして、おしゃれを楽しむ中で、アレンジが加えられた新しいデザインが登場しました。
江戸時代中期に刊行された「小袖雛形本」から「光琳模様」と呼ばれるモチーフを単純化した丸みのある文様が流行していたことがわかっています。このような文様には「光琳~」と名称がつけられ、「光琳梅」も描かれました。モチーフの表現方法を工夫することにより、新たなデザインとしてまったく異なる印象を与えてくれます。
梅は、モチーフとして長い間親しまれてきたこともあり、キョーテックコレクションを見ていくと、花の中では菊に続く使用頻度の高さであることがわかりました。図1に示したような、梅の花として一般的なデザインも数多くありますが、ここでは、少し変わった梅のデザインを型紙から紹介したいと思います。
図2は、背景に菱が敷き詰められ、鶴と梅が組み合わされたモチーフが彫刻されています。現実にはあり得ないのですが、鶴の胴を梅の花で表現することにより、丸みを帯びたかわいらしいデザインになっています。鶴は曲線の多い形状ですが、背景の菱は直線的であり、対照的な組み合わせになっています。
図3は、唐草と花をデザインした型紙で、突彫(小刀のような彫刻刀で、刃を上下に突き刺すように進めて彫刻する技法)によるものと思われます。花は、松と梅の花と笹の葉で象り、「歳寒三友」の松竹梅を使って架空の花を作り上げています。松、竹、梅の「かたち」を利用して、全く別のモチーフを形作るという発想が際立つ型紙です。
多種多様なモチーフが日本のデザインには用いられていますが、基本となる形に加えてアレンジされたものも数多く見つけることができます。こうしたアレンジは、モチーフに対する小さな工夫の繰り返しなのでしょう。そして、アレンジの積み重ねから新たなデザインが創出されてきた様子をうかがうことができます。
参考文献
『日本の美術 光琳模様』524号 2010年