私たちの周りに何気なく、雀はいます。雀を題材とした絵画は古くから描かれますが、とりわけ「竹に雀」は自然の情景でもあることから、絵画や工芸作品のデザインにもしばしば取り上げられてきました。『日本国語大辞典』には「竹に雀」が「(取り合わせのよいものとされるところから)図柄として、また、一対として格好なものにたとえる」と説明されていて、取り合わせのよい代表格として扱われています。
型紙にも雀文様が採用される例も多く、キョーテックコレクション約18,000枚のうち現段階で143枚の雀文様の型紙を確認しています。
この型紙は「ふくら雀」と呼ばれる、まるまるとした雀をデザインとして使用しています。「ふくら雀」はふとったような雀の子、あるいは寒気を防ぐため全身の羽毛をふくらませてふっくらと見える雀を指します。そのため、冬の情景として表現される例が多くあります。この型紙も雀の周囲を「雪輪」が囲んでいて、冬の情景を想起させます。また、「ふくら」が「福良」ともつながり縁起がよいとされたことから、雀文様の多くはこのような「ふくら雀」の形で表現されています。
続いてこちらの型紙は、縞文様の中に「ふくら雀」と竹が大きく配されています。かなりデフォルメされているように感じますが、節や葉の存在から竹であると判断できます。こちらの型紙は、遠目に見ると縞の中に竹と雀が浮かび上がっているように感じますが、拡大してみると、彫刻技術の高さをうかがうことができます。竹や雀の輪郭を表現するために、彫刻する直線の幅を少しずつ変えているのです。また、竹と雀の輪郭線を際立たせるため楕円形に小さな粒が彫刻されています。こちらはおそらく「道具彫」と呼ばれる、彫り抜く形をした彫刻刀を使用した技法によるものと考えられます。加えて、この型紙は本紙の大半を彫刻しているため、型紙が破れたりずれたりして染色工程で防染糊が正確に塗布できない可能性があります。そのため、染色工程でデザインが崩れてしまわぬよう「糸入れ」と呼ばれる絹糸を使用した型紙の補強がほどこされています。
この型紙は、離れて見ると大柄なデザインですが、近づいて見ると型紙の技術を目の当たりにすることができ、印象が随分と変わる型紙の一枚でしょう。
最後にご紹介する型紙は、複数の文様を使用するだけではなく、もとの形をアレンジして形作られたデザインです。この型紙は、縦、横、斜めの直線により構成された「麻の葉文様」ですが、直線には竹の節を確認することができ、麻の葉文様の中の菱形は、雀が向かい合う「向い雀」になっているのです。顔と胴体はまんまるとしたままで「ふくら雀」の要素を残しつつ、羽根は、麻の葉文様を構成する菱形におさまるように調整されています。麻の葉、竹、雀はそれぞれ伝統的な文様ですが、少しずつアレンジすることにより、まったく別のデザインを形作ることができるのです。このような自由自在なアレンジは、麻の葉文様のシンプルな形状がうまく活かされた例といえるでしょう。
雀文様の多くは、実際のかたちをデフォルメし、現実には存在しえないデザインです。しかし、実在のかたちにとらわれることなく、さまざまに楽しんで新たなデザインを制作していた様子を型紙からうかがうことができるのです。
参考文献
岩崎治子『日本の意匠事典』1984年
岡登貞治『文様の事典』1968年