「格子文様」とは、縦横の筋によって構成される文様のことで、格子縞とも呼ばれました。線が交差した文様ですが、筋の太さや密度、配置の方法によってさまざまなデザインがつくられています。特に江戸時代には歌舞伎の人気から歌舞伎役者を冠した格子のデザインが広まっています。
「近江小藤太成友 尾上菊五郎」 初代歌川国貞 |
たとえば、歌舞伎役者の尾上菊五郎の名前にちなんだ「菊五郎格子」があります。「菊五郎格子」は四本と五本の筋の組み合わせの間に「キ」「呂」の文字が配されています。こちらの役者絵を見ると、袖に菊五郎格子が確認できます。このようなデザインが生まれるのは、人気役者ならではといえるでしょう。格子は、さまざまなバリエーションが生まれて人々の間に浸透し、スタンダードなデザインでした。そのため、キョーテックコレクションの型紙にも格子を含む型紙が430枚程確認できます。
型紙の中にも歌舞伎と関連するデザインがあります。こちらの型紙は、三筋の格子と蝙蝠が配されています。こちらの型紙は、「突彫」と呼ばれる鋭い刃先を地紙にあてて彫り進める技法によるものです。格子の線と蝙蝠の曲線が非常に対照的ですが、同じ技法によって彫刻されています。
三筋の格子は別名「団十郎格子」とも呼ばれ、蝙蝠もまた市川団十郎にちなむデザインであり、この型紙からは歌舞伎役者の市川団十郎が連想できます。このほかにも市川団十郎の定紋である三升紋と蝙蝠を配した型紙がキョーテックコレクションにあり、以前紹介しました(2015年3月の解説に使用「蝙蝠に三升」)。歌舞伎とデザインそして型紙との繋がりがよくわかる例です。
次に紹介する型紙は、三筋が斜めに交差して菱形をつくり、隅切文様が割り付けてあります。見事な直線の構成とゆがみの少なさに型彫り職人の技術の高さが垣間見えます。さらに、この型紙は筋の交差する箇所にそれぞれ小孔を四つ彫刻しています。これは「錐彫」と呼ばれる半円形の彫刻刀を地紙にあて、半回転させることで小孔を彫刻する技法によるものでしょう。
こちらの型紙は地紙がほとんど彫刻されているので、制作には非常に手間と根気が必要です。デザインを創造し、それを形に仕上げるまでにどれほどの時間を要したのかと想像すると気が遠くなります。
最後に紹介する型紙は、井桁と斜めの格子が組み合わせになったデザインです。格子を構成する直線の内部は、間隔の非常に狭い横線で構成されています。さらに格子の内部は、細かな正方形が敷き詰められるように構成されています。遠目からでは井桁と格子が際立ちますが、よく目をこらしてみると、格子の直線や内部にまで型彫師の技術がふんだんに盛り込まれています。一つのデザインで、近くからと遠くからの二度楽しむことができたのではないでしょうか。
格子は直線の交差により構成される単純なデザインですが、単純だからこそ工夫の余地があり、職人の腕の見せ所なのかもしれませんね。
参考URL
立命館大学アート・リサーチセンター所蔵・寄託品浮世絵データベース