染色型紙プロジェクト > キョーテック所蔵型紙の解説

扇の文様と型紙
13.12.01
キョーテック所蔵型紙の解説

 12月14日は、赤穂浪士が吉良邸に討ち入りを果たしたとされる日です。人形浄瑠璃の『仮名手本忠臣蔵』は、討ち入りから47年目の寛延元年(1748)に初演されました。初演以後、現代に至るまで歌舞伎・文楽ともに人気の演目です。
『仮名手本忠臣蔵』七段目では、大星由良之助が敵の目を欺くために、祗園一力で遊興にふけっています(図1)。

arcUP3698.jpg

図1「新はん忠臣蔵十二だん続」「忠臣蔵七段目」芳藤 画
安政元年(1854)正月 立命館大学ARC蔵(arcUP3698)

100-0636.jpg100-0635.jpg100-0634.jpg

図2「大星由良之助 尾上菊五郎」国貞 画
天保8年(1837) 早稲田大学演劇博物館蔵(.100-0634~0636)

 扇を首元に差し、目隠しをして遊ぶ様子は、とても主君の敵討を目論む人物とは思えません。しかしその後、息子である力弥が由良之助の元へ密書を届け、事態は展開します。図2「大星由良之助 尾上菊五郎」は、由良之助が密書を読む場面ですが、首もとには扇が差したままです(演劇博物館浮世絵閲覧システム 100-0634~0636)。扇を首に差したままという遊興の余韻と密書を読む姿が対照的です。この場面では扇が、由良之助の本心を隠すようなアイテムとしても描かれています。
では、扇はデザインとしてはどのように用いられているのでしょうか。例としては、江戸時代の小袖や屏風(東京国立博物館画像検索)、漆器に扇が蒔絵された作例や扇形をした陶磁器などが挙げられます。扇は開いても閉じても、そして扇の骨に張る「地紙」も意匠化されています。特に開いた扇や地紙は、一つの画面としてとらえられ、その中へ人物や風景、文様などがさまざまに表現されます。
図3は、型紙全体に扇がぎっしりと型彫されています。扇の地紙と呼ばれる部分は「錐彫」という半円形の刃物を回転させて小孔を彫りぬく技法が用いられています。そして、扇の骨は突彫が用いられていると考えられます。扇の骨が通る折り目一つ一つまで、錐彫により丁寧に表現されています。扇が小袖や絵画に表現される場合は、「扇散らし」と呼ばれるように、扇が画面全体にゆったりと配置される作例が多いので、この型紙の構図はやや珍しいかもしれません。

KTS00001.jpg

図3「扇尽くし」
KTS00001

KTS00001s.jpg

 図4も同じく扇をモチーフとした型紙です。こちらは、図3の型紙と比べるとゆったりと扇が配置されており、半分閉じた扇もあります。この型紙はすべて錐彫によるもので、小孔により扇の輪郭、扇の骨が表現されています。また、図3の型紙とは異なり、扇面全体も彫りぬかれ、等間隔な小孔が並びます。しかし、扇の骨が通る箇所の小孔は直線上に、そして周囲より間隔を狭くして彫刻されています。同じ刃物を使いこなしながら、繊細な小孔の間隔や並べ方によって、扇の折り目が浮かび上がるように表現されているのです。

KTS06710.jpg

図4「扇散らし」
KTS06710

KTS06710s.jpg

 ここに挙げた二枚の型紙は、扇という同じモチーフを表現していますが、彫刻の間隔やモチーフの配置で随分と印象が変わります。芸能で扇が角度や開き具合といった、ちょっとした違いからさまざまな心情が表現される点と重なるかもしれません。

参考URL
立命館大学ARC浮世絵閲覧システム
演劇博物館浮世絵閲覧システム
東京国立博物館画像検索

※画像、記事の無断転載を禁止します。
(c) 2013 KYOLITE Co.,ltd. Mizuho Kamo
株式会社 キョーライト

 

株式会社キョーテック所蔵型紙の解説
 株式会社キョーテック(京都市下京区)は、18,000枚もの型紙を今も所蔵しています。立命館大学アート・リサー...
40.01.01
キョーテック所蔵型紙の解説
鶴は千年亀は万年
 「鶴は千年 亀は万年」として知られるように、鶴と亀は寿命が長いことから吉祥性のある動物として尊ばれ、さまざまな装飾に用...
15.04.01
キョーテック所蔵型紙の解説
こうもりは「福」を呼ぶ?
 「こうもり」に対してどのようなイメージをお持ちですか?何となく暗くて、不吉なイメージを持つ方もいらっしゃるのではないで...
15.03.01
キョーテック所蔵型紙の解説
立身出世の鯉
 昔、黄河の急流にある「龍門」という滝をのぼろうと多くの魚が試みましたが一部の魚だけがのぼることができ、やがて竜に化した...
15.02.01
キョーテック所蔵型紙の解説
雀のかたち
 私たちの周りに何気なく、雀はいます。雀を題材とした絵画は古くから描かれますが、とりわけ「竹に雀」は自然の情景でもあるこ...
15.01.01
キョーテック所蔵型紙の解説
冬の鳥 千鳥
 千鳥文様は、冬の水辺に棲むチドリ科の鳥が空を飛ぶ様子を模していて、古くから親しまれています。現在も千鳥文様は、手拭いや...
14.12.01
キョーテック所蔵型紙の解説
紗綾形のさまざま
図4 風通 紗綾形(KTS14485) 図4 部分拡大めらかで光沢のある絹織物の一種を指します。多くは白生地で後から加工...
14.11.01
キョーテック所蔵型紙の解説
型紙の中の市松文様
 市松文様とは、異なる二色の正方形を互い違いに配した幾何学文様で(図1)、世界各地でデザインとして古くから用いられてきま...
14.10.01
キョーテック所蔵型紙の解説
身の回りにある七宝文様
 同じ半径の円を円周の四分の一ずつ重ねて形作られる「七宝文様」は別名「輪違い文様」とも呼ばれます。「七宝」の名は、四方に...
14.09.01
キョーテック所蔵型紙の解説
直線で構成される植物文様―麻の葉文様と型紙―
 麻の葉文様とは、麻の葉を象ったとされる文様で、正六角形に縦、横、斜めの直線を引いて構成されています。ただし、麻の葉から...
14.08.01
キョーテック所蔵型紙の解説
涼の型紙
 団扇(うちわ)は、あおいで風を起こして涼をとるためや日差しを避けるために使われます。蒸し暑い季節は、ほんの少し風が吹く...
14.07.01
キョーテック所蔵型紙の解説
日本生まれの吉祥文様―橘
 6月は梅雨の季節で雨の日が多くなりますが、雨粒に紫陽花が映える植物の美しい時期でもあります。  初夏に花...
14.06.01
キョーテック所蔵型紙の解説
端午の節句と型紙のデザイン
 5月5日は、古来より「端午の節句」として男児の健やかな成長を願う行事がおこなわれてきました。現在のように「こどもの日」...
14.05.01
キョーテック所蔵型紙の解説
桜の型紙
 3月から4月は卒業式や入学式など、門出を祝う行事が盛りだくさんです。晴れの門出をより一層華やかにしてくれるのは桜です。...
14.04.01
キョーテック所蔵型紙の解説
蝶の型紙
 春になると、蝶があたりを舞い始め、春の訪れを感じさせてくれます。蝶は、古くは平安時代からさまざまなものに意匠として登場...
14.03.01
キョーテック所蔵型紙の解説
さまざまな梅
 京都の北野天満宮では、梅苑が例年2月初旬から公開され、25日には「梅花祭」が開催されます。梅の花は、冬の終わりとともに...
14.02.01
キョーテック所蔵型紙の解説
型紙に表現された正月
 浮世絵には、正月の風景として女性や子どもが羽根つきを楽しむ様子がしばしば描かれます(英泉画「十二ヶ月の内 正月 春の遊...
14.01.01
キョーテック所蔵型紙の解説
扇の文様と型紙
 12月14日は、赤穂浪士が吉良邸に討ち入りを果たしたとされる日です。人形浄瑠璃の『仮名手本忠臣蔵』は、討ち入りから47...
13.12.01
キョーテック所蔵型紙の解説
歌舞伎と型紙
 歌舞伎に関連する型紙の多くは役者の家紋を採り入れています。図1は歌舞伎役者の家紋を組み合わせたもので、「三升」「三つ銀...
13.11.01
キョーテック所蔵型紙の解説
紅葉の季節
 毎年、秋になると紅葉(こうよう)の名所が賑わいます。黄色や赤へと木の葉の色が変わる様子に季節の移ろいを感じる...
13.10.01
キョーテック所蔵型紙の解説
菊と型紙
 9月とはいえ残暑が厳しい昨今ですが、少しずつ秋の気配が近づく頃でしょうか。旧暦の9月9日は五節句の一つ「重陽の節句」で...
13.09.01
キョーテック所蔵型紙の解説
水の文様と型紙
 温度が管理された室内で一日を過ごすことも多い現代の夏ですが、水辺を眺め、流れる水の音を聴くだけで涼しさを感じられる、そ...
13.08.01
キョーテック所蔵型紙の解説