1.03.2 標的の転換

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 「仮名手本忠臣蔵 三段目」
「おかる 大谷友松」「早の勘平 実川延若」「本蔵 関三十郎」「伴内 中村仲助」「師直 市川小団次」「判官 市村家橘」
 
芳滝 大判/錦絵(横) 役者絵・上方絵
出版:慶応1年(1865)、大坂
立命館大学ARC所蔵 arcUP2887
【後期展示】
 
■解説
 右側にはお軽・勘平・伴内、左側にははなだ色の大紋を着た師直が判官に詰め寄る場面が描かれている。 
 新しく建てられた御殿には直義をもてなすため、師直や判官、若狭之助をはじめ役人や武家が参上する中、顔世の腰元おかるは師直宛の返事が入った顔世の文箱を携えて御殿へ来ていた。先日の若狭之助と師直の対立を考慮し、顔世は返事を書くつもりは無かったのだが、判官の家来早野勘平に逢いたいお軽が無理を言って返事を書かせたのである。この文箱を判官へ渡すよう伝えると、門内より勘平を呼ぶ声がする。勘平が去ると入れ違いでやってきたのは鷺坂伴内である。先ほどの声は伴内のしわざであった。お軽に横恋慕している伴内が口説くが、今度は伴内を呼ぶ声によって仕方なく去るのだった。そして現れた勘平とお軽、恋仲の2人は逢瀬のため人気のない場所に消えていくのであった。しかし後にこの軽率な逢瀬が二人を苦しめることになる。
 
 御殿では若狭之助がおのれ師直真っ二つと刀に手をかけ師直を待っていた。しかし師直は若狭之助を見るなり鶴岡八幡宮での過言を詫びる。本蔵の裏工作を知らない若狭之助は低姿勢な謝罪に拍子抜け、刀を抜くことができず大事になることはなかった。本蔵も賄賂が効いて一安心する。プライドの高い師直が機嫌を損ねていたところに塩冶判官が顔世からの返事を渡すが、そこには師直を拒絶する和歌が書かれていた。嫉妬と怒りで判官を井戸の中の鮒に例えて笑うなど悪口雑言を浴びせる場面である。
 
 この芳滝の図では二つの場面を斜め半分に分けて描くが、登場人物たちが皆右を向かせることで自然に右から左の場面へと目を移すことができる。二段目の芳滝の図でも右を向かせることが多い。(藤井)
 

  <注>

1:紺色
2:貴人のそばに仕えて雑用をする侍女。
3:「さなきだに 重きがうへの さよ衣 わがつまならぬ つまな重ねそ」
4:「井の中の蛙大海を知らず」か