1.01.2 師直の横恋慕

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「大序」
「高の師直 坂東亀蔵」「かほよ御せん 沢村田の助」
 
豊国〈3〉 大判/錦絵 役者絵
上演:文久2年(1862)3月17日江戸・中村座
興行名:「仮名手本忠臣蔵」
場名:「大序 鎌倉鶴ヶ岡の段」
立命館大学ARC所蔵 arcUP1955
【前期展示】.
 
■解説
 仮名手本忠臣蔵のすべての始まりは、高師直から顔世御前への「恋」であった。この浮世絵は、人妻である顔世の美しさに惚れた師直が顔世に強引に付け文を渡す場面である。幕府の重役である師直の求愛に対して顔世は夫判官への影響を恐れて断るに断れない状況である。さらに師直から塩冶判官を殺すも生かすも顔世の心次第だと追い打ちをかけられ涙ぐむ。ここから人妻であっても自分のものにしようとする非常に傲慢で高圧的な師直の人物像が読み取れる。また、顔世が持つ色気と品格によって顔世の女性らしさ、男と女というはっきりした構図をみることができる。

 師直の横恋慕によって始まった物語は、様々な家を巻き込み、人間関係を狂わせていく。忠臣蔵物語は単なるお家騒動1だけではなく、「恋」を一つのテーマとして、それに翻弄される人間群像を描き出していると言えよう。(藤井a)

 <注>

1.お家騒動:江戸時代において、大名などの家中で起こる内紛のこと。