5.1.04 『赤穂浪士』

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 『赤穂浪士』
大佛次郎(著)
出版:昭和3年(1928)(初版)
立命館大学図書館所蔵
【前後期展示】.

■解説
 赤穂の浪人たちが忠義のために吉良の首を狙う、という形でのみ描かれてきた物語を、時代の移り変わりとそれに逆流する者たちという大きな枠組みの中で捉え直し、忠臣蔵に新しい視点を取り入れた小説である。
 「赤穂浪士」という呼称は本作品によって普及したが、それまで定着していた呼称である「義士」との相違点は、「義士」が忠義を体現する存在であるのに対し、「浪士」は体制に抗う存在であるという点である。
『赤穂浪士』の「浪士」たちは、武家の世の中から商人や政治家の世の中へという流れに抗い、吉良討入りを通して、その背後にいる柳沢吉保という巨大な政治勢力に挑んでいく。初出は『東京日日新聞』の連載で、関東大震災や世界恐慌といった苦難のなかで政府の支援を受けた大企業ばかりが成長し、貧富の差が膨らんでいくという昭和初期の世相を反映している。(川内a)