4.1.0 曽我の敵討

 1193年に関東で起きた敵討である。日本の敵討では、長く人口に膾炙したもので、物語は、軍記物語風の伝記物語である「曽我物語」として伝わっている。河津三郎の子、十郎と五郎が、幼時に殺された父の敵工藤祐経を打つため、艱難辛苦の末、冨士の巻狩の時の夜営に夜討をかけ、祐経を討つというものである。
 この曽我物語は、能や浄瑠璃、歌舞伎の題材となり、広く知られるようになった。なかでも、歌舞伎では、毎年のようにこの物語が「○○○曽我」というタイトルで脚色されたが、元禄期以降、江戸の三座では、初春狂言として毎年曽我物語を正月に出し、当たれば、3月、5月と続演して、5月28日の討入りまで上演し続けるというのが慣例となって、一題材の枠組みを超えた世界を形作ったのである。(a)