2.1.03 親子の最期

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「誠忠大星一代話」 「三十三」 

豊国〈3〉 大判/錦絵 物語絵
出版:嘉永1年(1848)
立命館大学ARC所蔵 arcUP0698
【後期展示】.

■解説
 「誠忠大星一代話」は、嘉永元年春に行なわれた高輪泉岳寺の開帳に合せて刊行されたシリーズで、大星由良之助の生涯を描いた三十五枚揃の作品。各作品ごとに、大星由良之助の虚実入り交じった逸話を紹介している。このシリーズの大きな特徴として、物故者を含めた様々な名優たちの似顔を使って由良之助の顔を描いていることが挙げられる。初期の由良之助役者として著名な初代沢村宗十郎や初代尾上菊五郎に始まり、実際には由良之助役を演じたことのない二代目市川団十郎など、多彩な顔ぶれが揃っている。
 本作は、三十三枚目で、由良之助と息子の力弥を描いている。添えられた文章には、討入りを終えた由良之助と力弥の様子が書かれている。
 「最早親子今生の別れ。最期に未練のある振舞をすれば後代までの恥辱となる。母兄弟の事など夢にも心に思うな」と力弥に諭しつつも、由良之助の頬には涙が落ちる。それを見た力弥も、流れる涙をぬぐいもせず父を見つめている。これこそ親子のこの世の別れ、心の中を推しはかられると四十七義士の面々も涙に袖を濡らし見守っているのであった。(A.Ka) 

 ■翻刻

四十七騎の義士等報讐本懐を遂 菩提所仙鶴寺へ引取
師直の首を亡君の墓に手向て後 桃井石堂其外四家へ
御預けの身となるへき旨 鎌倉殿より命せられければ 大星親
子両家へ分れ 既に乗物を 舁入ければ由良之助力弥に向ひ最早
親子一世今生の別れなり 末期に未練の振舞あらば後代
までの恥辱なり 母兄弟の事など夢にも心に係給ふなと潜に教
諭なしながら 頻に落涙なしければ 力弥も父の顔をうち
守り 流るゝ涙ぬくひもあへず 是ぞ親子の此世の別れ 心の
中を推はかられ四十七騎の面々も倶に袖をぞぬらしけり
                                                                     一筆斎誌