2.4.4 訪ねてきたお園

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「忠臣蔵 十段目」

春英 間判/錦絵 物語絵
出版:寛政年間(1795頃) 江戸
立命館大学ARC所蔵 arcUP2741
【後期展示】.

■解説
 本図は、親の了竹が義平に無理矢理書かせた去り状1を、奪って戻ってきたお園に対応する丁稚の伊吾と、それ見て伊吾を奥に引っ込ませる義平の姿を描く。
 義平によって実家に帰されていたお園だったが、夫や息子に会いたい一心で、父である了竹から義平が書いた去り状を盗んで、家を訪ねてきた。義平は「子どものためを想うなら、病人のふりをして実家でおとなしくしておくようにと言ったのに、なぜ訪ねてきたのか」と、お園に冷たくあたる。「こうなることはかねてから定まっていた運命なのだ」とお園が持ってきた去り状も突き返すのであった。
 義平の男気に富んだ性格を平常からよく知っているお園は余計に悲しく思う。ならば、せめて子どもに会いたいと言うお園に、子どもを想うなら、中途半端に今会うべきではない、とかたくなに断り、締め出してしまう。お園は前後も分かたず泣きじゃくるのだった。
 母のいない間の子の様子を、その子を舞台に出さずに夫婦の会話だけで眼前に浮び上らせ、突き放す義平の妻への愛情や子どもを想う親としての気持ちを切々と訴える。単に義侠心を持つ男というだけでなく、家族を持つ夫や父親としての義平の思いを感じ取ることができる。(A.Ya)

 ・去り状1  離縁状。三行半。庶民の間で夫から妻、または妻の父兄にあてた離縁状の別称。

 ■参考
仮名手本忠臣蔵 歌舞伎オン・ステージ8 服部幸雄 (1994) 白水社