2.4.0 天河屋義平一家

 天河屋義平は町人として登場する。商家を営み、俠気のある頼もしい男である。同時に家族思いな男でもあった。しかし、義平は由良之助から討入りの武器の調達を頼まれ、塩冶家の騒動に巻き込まれていく。自分が商人として成功できたのは塩冶家の引立てがあったからであると武家の家臣以上に塩冶家に恩義に感じていた義平であった。
 義平は町人であるがために討入りへ同行することはできない。そのために、少しでも由良之助らの為に役に立ちたかったのである。ただ、討入りに加担すれば、自分や家族がどうなるかということも考えたであろう。それだけに、一旦決意を固めた義平に心の揺らぎは少しもなかったのである。
 義平は、徹底していた。店や家族の犠牲をも厭わなかった。秘密を守るために奉公人には理由をつけて暇をやり、妻のお園は、嫌いでもないのに離縁し、最愛の息子と離ればなれにしてしまう。そして、偽装して心の内を試す義士たちが息子の命を奪おうとも動ぜず、あまつさえ、自ら子の命を奪おうとさえする。
 一度は義平の心底を疑った由良之助一党であったが、義平の武士にも劣らぬ義侠心を目の当たりにすることで、疑ったことを謝罪し、また、義平の妻のお園との関係を戻すよう取り計らう。最大の忠義者は、あるいは芝居の見物客にもっとも近い、義平であるかのように描かれているのである。そのためか、結果的には義平一家には、大きな悲劇は訪れていない。敵討ちという理不尽な世界が、武士の世界のものであることを言いたかったのかも知れない。(a)