2.2.3 逃れられない悲劇の家

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「忠臣蔵 五段目」
「斧定九郎 大谷紫道」「与一兵衛 坂東太郎」

国周 大判/錦絵 役者絵
上演:明治元年(1868)10月 江戸・中村・守田(合同)
「東京忠臣由良意」
立命館大学ARC所蔵 arcUP2943
【後期展示】.

■解説
 右上に描かれているのは塩冶家家臣・斧定九郎。父は斧九太夫で、家老の一人。四段目の城を明け渡す評定の場では、父とともに逐電した。今は、街道に現れ追いはぎを働く盗賊と身を落としている。この定九郎が山崎街道で出会い、金銭を強奪するに至った相手が、お軽の父、そして早野勘平の義父与一兵衛である。与一兵衛は、娘婿の勘平のために工面した五十両を入れていた財布を定九郎に奪われ、殺されてしまう。しかも、このあと定九郎は、勘平が猪を目がけて撃った流れ弾に当たって命を落とし、奪った五十両入りの財布は、勘平の手に入る。定九郎が与一兵衛を餌食にしたのは、単なる偶然。そして、定九郎が撃たれたのもまさに偶然。しかし、与一兵衛一家の悲劇は、こうして逃れることのできない悲劇として運命づけられているのである。(K.Ka)

 【参考資料】

戸坂康二(2006)『仮名手本忠臣蔵-江戸を熱狂させた仇討ちと悲恋』(ビジュアル版 日本の古典に親しむ⑪)世界文化社

郡司正勝(1986)「『仮名手本』の2人の不義士-定九郎と勘平」,『國文學-解釈と教材の研究』31(15),p.54-56,學燈社