2.3.00 大星家と加古川家

  大星由良之助の息子力弥と加古川本蔵の娘である小浪は許嫁で相思の仲であった。「仮名手本忠臣蔵」では三つの恋が展開されるが、その中で最も幼く、そして切ないのがこの二人の恋である。さらに二人の家族をも巻き込んで運命の歯車が狂っていく。
 本蔵が塩冶判官を抱き留めたことで、師直への刃傷は未遂に終わり、塩冶判官の無念はこの地に止まることになる。塩冶家は御家断絶という結末を迎えるが、これにより、力弥と小浪の縁談は自然と破談となり、大星親子は、討入りへと駆り立てられていく。
 主君を思う家老であり、また子供を持つ親という似たような立場である由良之助と本蔵の二人。しかし、由良之助は忠義の為に命を捨てようと決意し、一方で本蔵は子供の為に命を捨てる。二人はまさに鏡のような存在であり、本蔵のセリフにもあるように、どちらの立場にもなり得たのである。
 そして、本蔵の死と引き換えに力弥と小浪の恋を成就することになるが、夫婦として過ごせるのはたった一夜だけ。戸無瀬は夫を失い、また由良之助も討入りに向けてその本蔵の着ていた虚無僧の衣装を身につけ、本蔵の魂共々準備のために旅立っていく。二段目から始まり、八段目、九段目と続いた二つの家族の物語も、ようやく終焉を迎えるが、二つの家族はそれぞれ悲しみを抱え、家庭崩壊という虚しさの残る結末となる。(a)