ここでは、大坂・京都で出版された上方絵と江戸で出版された江戸絵を、忠臣蔵をテーマに描かれた作品で比較してみる。 まず1点目は、文化・文政期(1804~30)を中心に江戸と上方で活躍した3代目中村歌右衛門を描いた作品である。江戸絵の軽妙洒脱な描写に対して、上方絵のそれは穏和でまったりとした印象を受ける。特に顔貌の表現にその違いが如実に表れている。 もう1点は、『仮名手本忠臣蔵』七段目を描いたもので、江戸絵ではおかる・由良之助・九太夫が上下に並ぶ密書盗み読みの場面が多く描かれたのに対し、上方絵では由良之助のおかる身請けの真意を悟った平右衛門が妹おかるに刀を振り上げ、おかるが懐紙を投げてのがれるという場面を描くことが多い。東西で好まれた場面取りの違いをうかがうことができる。 そのほか、江戸の歌舞伎が様式美を愛でるのに対して、上方は写実性を重んじるという嗜好の違いが演出や衣装の違いとなって表れ、それが江戸・上方それぞれの役者絵にも反映されている。たとえば、四段目の判官の切腹場の四隅に置かれる樒(しきみ)の置き方や、六段目の勘平や七段目の遊女おかるの衣装など、浮世絵にもその違いが表れており、そうした点にも着目して上方絵と江戸絵を見比べていただきたい。