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B1「仮名手本忠臣蔵」での登場シーン
寛延元年(1748)の『仮名手本忠臣蔵』成立によって、赤穂事件を題材とする芝居はひとつの完成形をみました。『碁盤太平記』『忠臣金短冊』『大矢数四十七本』など先行する浄瑠璃・歌舞伎の諸作品の要素を取り入れながら練り上げられた巧みな構成となっています。また、幕府が実際の事件を実名入りで上演することを禁じていたので、『碁盤太平記』にならって時代設定を『太平記』の世界にとり、登場人物の名前も実名とは変えています。赤穂四十七士の頭領大石内蔵助は大星由良之助として登場し、覚悟と決意を心底に秘め、思慮分別に富み、胆力のすわった人物として描かれています。ちなみに、外題の「忠臣蔵」とは、忠臣たちのいっぱい詰まった蔵で、大石内蔵助の蔵をかけています。
天明5年(1785)に刊行された『仮名手本忠臣蔵』各役の芸評集『古今いろは評林』でも、『忠臣蔵』は観客が新たな趣向を期待する演目だとされたように、由良之助をはじめとする主な役どころは、役者がみずからの芸風に加えて役の解釈と工夫を重ね、また他の役者と芸を競い合うことによって洗練され、受け継がれていきました。
評判となった上演はたちどころに浮世絵に描かれて庶民の享受するところとなり、『忠臣蔵』は広く普及浸透していきました。そして由良之助も、実説の大石内蔵助を忠臣とする評価と相まって、『忠臣蔵』の主人公、義士たちの頭領としてのヒーロー像が形づくられていったのです。
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【主要参考文献】
赤穂市教育委員会市史編さん室編『忠臣蔵』第2巻(赤穂市、2011年)
赤穂市総務部市史編さん室編『忠臣蔵』第4巻(赤穂市、1990年)
赤穂市総務部市史編さん室編『忠臣蔵』第5巻(赤穂市、1993年)
赤穂市総務部市史編さん室編『忠臣蔵』第6巻(赤穂市、1997年)
赤穂市教育委員会市史編さん室編『忠臣蔵』第7巻(赤穂市、2014年)
赤穂市立歴史博物館編『赤穂市立歴史博物館収蔵 忠臣蔵の浮世絵』(赤穂市立歴史博物館、2004年)
赤穂市立歴史博物館編『描かれた赤穂義士』(赤穂市立歴史博物館、2012年)
赤穂義士会編『赤穂義士会所蔵 忠臣蔵の浮世絵』(赤穂義士会、2015年)
赤穂市立歴史博物館編『錦絵にみる「忠臣蔵」の世界』(赤穂市立歴史博物館、1998年)
赤穂市立歴史博物館編『歌川国貞の忠臣蔵浮世絵』(赤穂市立歴史博物館、2014年)
服部幸雄他編『新訂増補歌舞伎事典』(平凡社、2000年)
演劇博物館役者絵研究会編『増補古今俳優似顔大全』(早稲田大学坪内博士記念演劇博物館、1998年)
野島寿三郎編『歌舞伎人名事典』(日外アソシエーツ、1988年)