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B2-01 市川小団次Ⅳ
由良之助役は、立役が演じるところの実事の代表的な役どころ。実事は、思慮分別に富み、常識をわきまえて肚のすわった人物で、悲劇的状況の中で苦悩する様子も描かれる役どころで、写実的な芸が求められます。
由良之助役、ことに七段目の由良之助は、『仮名手本忠臣蔵』成立以前の延享4年(1747)京都・布袋屋梅之丞座『大矢数四十七本』で大岸宮内役を演じて大当りをとった初代沢村宗十郎の型が大きな影響を及ぼしたとされ、以後多くの名優たちによって創意工夫がこらされていきました。
寛延元年(1748)8月から11月まで大坂・竹本座で人形浄瑠璃として初演された『仮名手本忠臣蔵』は、その年の12月には早くも大坂・嵐三五郎座で歌舞伎に移され、2代目嵐三十郎が由良之助と勘平の2役を勤めています。寛延2年(1749)2月森田座の『仮名手本忠臣蔵』は江戸での歌舞伎初演で、由良之助は山本京四郎が演じました。同じ年の5月には市村座、6月には中村座でも『忠臣蔵』がかかり、市村座は3代目沢村長十郎(初代沢村宗十郎の後名)、中村座は初代坂東彦三郎がそれぞれ由良之助を勤め、大当りをとりました。宝暦(1751~64)後期ごろまでは、由良之助は京四郎と長十郎が演じることが多かったのですが、以後は多くの役者が芸と工夫の面で演技を競うことにより役柄の理解・解釈に深みが増していき、家の芸として継承されていきました。
明和年間(1764~72)には初代尾上菊五郎が由良之助と戸無瀬の早替りを行い、安永(1772~81)から寛政(1789~1801)には上方を中心に活躍した4代目市川団蔵がしばしば由良之助を演じ、7役早替りといった工夫をみせました。寛政から文化(1804~18)にかけては3代目坂東彦三郎が何度も由良之助を演じています。
文化・文政期(1804~30)の代表的な由良之助役者は3代目坂東三津五郎で、しばしば由良之助を含め7役を替りました。この7役早替りは文政期に江戸で盛んに行われ、文政2年(1819)4月玉川座で7代目市川団十郎、同5年5月中村座で3代目坂東三津五郎が7役を勤め、文政10年7月には市村座で3代目三津五郎と7代目団十郎、中村座で3代目尾上菊五郎がそれぞれ7役で競いました。文政13年5月河原崎座では2代目沢村源之助(後名5代目沢村宗十郎・5代目沢村長十郎・3代目助高屋高助)が11役を演じています。上方では、5代目市川団蔵や3代目中村歌右衛門が5役などを勤めています。
天保期(1830~44)の由良之助役者としては、3代目尾上菊五郎・5代目沢村宗十郎・4代目中村歌右衛門らがいますが、とりわけ7代目市川団十郎は、天保3年の5代目海老蔵改名以後、天保4年3月河原崎座の7役をはじめ、天保6年9月市村座で7役、天保8年は8月名古屋・若宮芝居と9月市村座で7役などを勤め、天保13年の江戸追放以後は上方や名古屋・伊勢・広島など地方でも数多く由良之助役を演じてその芸を各地に広めました。
幕末期には、6代目市川団蔵や8代目片岡仁左衛門らが由良之助をしばしば演じています。
明治に入ると、日替りで役者が役を交代して演じる趣向がしばしばみられるようになります。明治11年(1878)11月から12月東京・新富座では、9代目市川団十郎・5代目尾上菊五郎・初代市川左団次、いわゆる「団・菊・左」を中心に3代目中村仲蔵・初代中村宗十郎らが、主な役すべてを日替りで演じました。翌年1月の新富座でも九段目の由良之助・本蔵・お石などを「団・菊・左」と仲蔵・宗十郎が日替りで勤めています。さらに、明治22年3月の桐座でも、七段目と九段目の由良之助・平右衛門・おかる・本蔵・戸無瀬の5役を「団・菊・左」が毎日替りで演じました。
由良之助に限らず、『忠臣蔵』の主要な役は、役者がみずからの芸風と役の解釈と工夫が重ねられ、他の役者と芸を競い合うことによって洗練され、受け継がれてきたのです。
ここでは、江戸時代から明治時代の、芝居の上演に即して由良之助を演じる役者たちを描いた役者絵・芝居絵、また上演とは無関係ながら役者の似顔で描かれた見立絵の作品をご紹介します。
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B2-02 市川団十郎Ⅶ(市川海老蔵Ⅴ)
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B2-03 市川団十郎Ⅸ
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B2-04 市川団蔵Ⅴ
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B2-05 市川団蔵Ⅵ
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B2-06 市ノ川市蔵
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B2-07 市村羽左衛門Ⅻ
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B2-08 尾上菊五郎Ⅲ
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B2-09 尾上多見蔵Ⅱ
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B2-10 片岡仁左衛門Ⅷ
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B2-11 沢村宗十郎Ⅲ
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B2-12 沢村長十郎Ⅴ
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B2-13 中村歌右衛門Ⅲ
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B2-14 中村歌右衛門Ⅳ
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B2-15 中村芝翫Ⅳ
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B2-16 中村仲蔵Ⅰ
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B2-17 阪東寿三郎Ⅲ
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B2-18 坂東彦三郎Ⅴ
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B2-19 坂東三津五郎Ⅲ
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B2-20「誠忠大星一代話」に描かれた役者たち
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B2-21 明治の由良之助役者たち