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2009年3月14日

シンポジウム内容③

○太平洋諸島の「脱植民地化」と日本文化
須藤直人(立命館大学)
 
 太平洋諸島の文化と日本文化の相互的な影響関係やイメージの往還を、「脱植民地化」という文脈において考えたい。
パラオのアバイ(集会所)は、自然や社会との結びつきを象徴する建築物であり、世界との関係を取り結ぶ場所である。だが植民地支配と観光はアバイを「卑猥」「幼稚」な「エキゾティック」な建物に変えた。ドイツや日本の統治下にあった当時から、その側壁に描かれた物語絵が「観光のまなざし」の的となるが、アバイにおいて男性が他村から送られる女性(モゴル)と出会う制度が公娼制度と解され、アバイに宿泊することは「野蛮」な風習と見られた。彫刻家であり民族学者である土方久功の影響により、アバイの物語絵がストーリー・ボードとして旅行者向けの土産物となると、パラオにとってのアバイの意味が再び変わってゆく。他方、パラオにおいて土方と親交があった中島敦の短編にはアバイの絵物語を題材としたものが見られる。そこでアバイは、植民地支配・資本主義システムに服しながら同化されない単独性の表象という意味を与えられている。
タトゥ(刺青)も自然や社会との関係性を構築するための「衣装」であったが、同様に「野蛮」な風習と見なされると、もはやそれは「衣装」ではなくなった。サモアの作家アルバート・ウェントは、タトゥを「衣装」と見るサモア社会の見方を、日本語の「和」という言葉を用いて説明している。「裸」にされた身体に再び「衣装」を着せること、すなわち、植民地支配の影響を受け、資本主義システムに包摂されながらも、単独性を保持した関係性や主体を再構築することが脱植民地化であり、日本を訪れたウェントはそのようなサモアと共通の単独性を日本に見出している。こうした単独性を相互に結びつける場として「オセアニア」を捉える太平洋作家達に呼応する様に、ミクロネシアを訪れた池澤夏樹の小説テクストは、ストーリー・ボードと並びパラオを世界と結び付ける、18世紀に初めてイギリスを訪れたパラオ人リー・ボーの「高貴な未開人」のイメージを書き換えている。

2009年1月28日

資料調査

28日(水)、同志社大学へ資料調査。『緑旗』1936-1942通覧。(楠井)

2009年1月22日

第5回・研究会報告

〈サハリン/樺太〉という複数のクロノトポス
―チェーホフ・譲原昌子・李恢成―
報告者:岩根卓史  参加者:2名
 本報告は、「樺太」あるいは「サハリン」を題材とした作品を対象に、重層的な歴史を持つこの地域を文学がどのように描いたか、を論じたものだった。報告者は最初に、この地域が帝政ロシアの流刑地・日本の植民地・ソ連領と、度重なる変遷を辿ったことに触れて、一つの歴史的視点では位置づけが難しいと指摘した。そして樺太/サハリンをめぐる様々な視点を浮かびあがらせるために、時代も帰属する共同体も異なる三人の作家の作品を並列して取り上げたと、その意図を説明した。チェーホフが現在のサハリンでは「郷土の作家」とされているなど、新たな知見も多く有意義な報告となった。
 討議では作品細部の位置づけや、相互の関連性についてより踏み込んだ解釈が聞きたいという要望があった。また日本文化DHと関係づけて、〈地域〉という観点から文学作品を横断的に見るというのは興味深いと考えられた。

2009年1月21日

「外地」文学研究会(第5回)

次回研究会は以下の通りです。
日時:2009年1月21日(水)17:30~18:30
場所:アートリサーチセンター第2会議室
報告者:岩根卓史氏
報告内容:〈樺太/サハリン〉という文学空間をめぐって
 ―チェーホフ・譲原昌子・李恢成―
テクスト:
・チェーホフ『サハリン島』(岩波文庫)
・譲原昌子「朔北の闘い」
 (黒川創編『「外地」の日本語文学選 満洲・内蒙古/樺太』1996、所収)
・李恢成『サハリンへの旅』(講談社文芸文庫)

2009年1月19日

資料調査

19日(月)、関西学院大学へ資料調査。『亜細亜詩脈』国会図書館未所蔵分確認。(楠井)

2009年1月 5日

東亜同文書院・東亜同文会雑誌記事データベース

愛知大学東亜同文書院大学記念センター/オープン・リサーチ・センターの作成したデータベースです。
東亜同文書院・東亜同文会雑誌記事データベース
現在愛知大学が所蔵している以下の資料について、記事等の検索ができます。
1.『東亜時論』 2.『東亜同文会報告』 3.『東亜同文会会報』 4.『東亜同文書院学友会『会報』』 5.『支那経済報告書』 6.『東亜同文会支那調査報告書』 7.『支那』 8.『滬友』 9.『支那研究』 10.『東亜同文書院支那研究部パンフレット』 11.『華語月刊』 12.『国際』 13.『第二江南学誌』 14.『江南学誌』 15.『霞山会館講演』 16.『滬友学報』 17.『崑崙』 18.『東亜研究』 19.『東亜同文書院創立三十周年記念論文集』 20.『東亜同文書院大学学術研究年報』
また東亜同文書院大学学生による旅行日誌のデータベースもあります。
東亜同文書院大学大旅行誌記事検索

2008年12月19日

資料調査

19日(金)、関大へ論文執筆のための文献調査。『文芸』1934-42通覧。(楠井)

2008年12月18日

研究会報告・書評『大日本帝国のクレオール』

第4回研究会報告
テクスト:フェイ・阮・クリーマン『大日本帝国のクレオール ――植民地期台湾の日本文学』(慶應義塾大学出版会 2007・11)
報告者:楠井 参加者:3名
報告者は、最初にこの本を取り上げた理由について、近年植民地文学の資料発掘が盛んになっているが、個々のテクストに踏み行った解釈・評価はこれからであり、台湾に関する様々な作品を取り上げた本書が、一つの実践例として有益であると考えたからと説明した。
本書は、主に旅行者として訪れた日本人文学者・在留日本人文学者・台湾人文学者の順に、それぞれの作品の分析を行っているが、一貫した読みの姿勢として、単純な二項対立ではなく多義性・曖昧性をテクストから読み取っていこうとする方向が見られると、報告者は指摘した。
議論では、邦訳書の表題となっている(原著タイトルでは見られない)「クレオール」という語が、本書の内容に適切であるかどうかが主に論じられた。本書は、台湾の近代に見られる多言語状況を指摘しているが、筆者が焦点を当てているのはあくまで日本語によって書かれたテクストであり、その意図が「クレオール」という言葉を表面に打ち立てることでぼやけてしまうのではないか、ということだった。また、本書では植民地期の台湾文学者の後続世代が、創作言語として日本語以外の手段を選ぶことが出来なかったと指摘されている。このような、日本語が他の言語に対して、近代化の手段として優位性を確立していくということは、他の植民地でも見られるが、その過程をより批判的に分析する必要があるのではないか、と論じられた。

2008年12月10日

研究会日程変更

「外地」文学研究会ですが、都合により下記のように日程を変更いたします。
・12月17日(水)17:00-18:00
 書評:『大日本帝国のクレオール』・データベースをどう作るか
 報告者:楠井
・1月(詳細日程未定)
 樺太の文学:譲原昌子「朔北の闘い」
 (黒川創編『「外地」の日本語文学選 満洲・内蒙古/樺太』1996、所収)
 報告者:岩根卓史氏(本学博士課程)

2008年12月 9日

第39回GCOEセミナー発表・報告記録

下記のような内容で発表を行いました。
・日時:2008年12月9日(火)18:00-
・場所:アートリサーチセンター多目的ホール
・テーマ:「戦前期「朝鮮」文学雑誌データベースの構築と課題」
・報告者:楠井清文
※発表要旨はこちら
質疑応答の内容は続きをご覧ください。
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