2008年12月18日

研究会報告・書評『大日本帝国のクレオール』

第4回研究会報告
テクスト:フェイ・阮・クリーマン『大日本帝国のクレオール ――植民地期台湾の日本文学』(慶應義塾大学出版会 2007・11)
報告者:楠井 参加者:3名
報告者は、最初にこの本を取り上げた理由について、近年植民地文学の資料発掘が盛んになっているが、個々のテクストに踏み行った解釈・評価はこれからであり、台湾に関する様々な作品を取り上げた本書が、一つの実践例として有益であると考えたからと説明した。
本書は、主に旅行者として訪れた日本人文学者・在留日本人文学者・台湾人文学者の順に、それぞれの作品の分析を行っているが、一貫した読みの姿勢として、単純な二項対立ではなく多義性・曖昧性をテクストから読み取っていこうとする方向が見られると、報告者は指摘した。
議論では、邦訳書の表題となっている(原著タイトルでは見られない)「クレオール」という語が、本書の内容に適切であるかどうかが主に論じられた。本書は、台湾の近代に見られる多言語状況を指摘しているが、筆者が焦点を当てているのはあくまで日本語によって書かれたテクストであり、その意図が「クレオール」という言葉を表面に打ち立てることでぼやけてしまうのではないか、ということだった。また、本書では植民地期の台湾文学者の後続世代が、創作言語として日本語以外の手段を選ぶことが出来なかったと指摘されている。このような、日本語が他の言語に対して、近代化の手段として優位性を確立していくということは、他の植民地でも見られるが、その過程をより批判的に分析する必要があるのではないか、と論じられた。

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