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E2.1 物語絵
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武者絵の名手だけあって、国芳には『忠臣蔵』をモチーフにした作品が多い。ただし、物語絵のシリーズは、安政元年(1854)の「仮名手本忠臣蔵」(横大判12枚、出品No.E2.1.1)の他はコマ絵入り見立役者絵の「仮名手本忠臣蔵」(出品No.E2.3.8)がある程度である。やはり国芳の『忠臣蔵』物で目を引くのは武者絵のジャンルに入る作品群である。文政(1818~30)後期から義士たちの討入り戦闘シーンなどを3枚続に描く作品を多数手がけている(出品No.E2.1.1~4、6、10~14)。天保期(1830~44)に入ると、洋書の挿絵を参照した「忠臣蔵十一段目夜討之図」(出品No.E2.2.5)を出して奇想ぶり、進取の気風を世に示している。さらに、弘化4年(1847)に刊行された「誠忠義士伝」シリーズ(出品No.E2.2.7)は、討入り姿の義士一人ひとりを描き上部に略伝を添える画面構成で、空前の大ヒットとなり、後の義士図の基本となった。義士の肖像画を志向して嘉永5年(1852)に出した「誠忠義士肖像」シリーズ(出品No.E2.2.15)は、当時は不評で未完に終ったが、近代的写実性がうかがえる作品として今日では評価が高い。 役者絵も少なからず描いている。E2.3.1~8 は、いずれも芝居の上演に即して描いたものである。E2.3.2 のように、舞台面を描くのではなく、『忠臣蔵』各段の主要な登場人物を演じた役者の舞台姿を散りばめて描いたシリーズや、E2.3.3 のように、同時期に2つの劇場で上演されたのに取材して、物語絵風の背景描写の中に役者が演じる様を描き込んだシリーズなど、趣向をこらしたものもある。E2.3.9 と 10 は見立の役者絵で、特に10「十二段続 仮名手本挑燈蔵」は、主題となる人物に関連ある人物を提灯かつ役者の似顔で描いたコマ絵を添えるという滑稽味あるシリーズになっている。また、『忠臣蔵』各段場面に見立てた美人画のシリーズとしてはE2.4.1 「見立挑灯蔵」が知られている。 戯画では、「源頼光公館土蜘作妖怪図」「荷宝蔵壁のむだ書」などの政治役風刺画の評価が高いが、『忠臣蔵』をモチーフにしてもその豊かな発想力、パロディ精神を発揮した作品を描いている。E2.5.1 のように『忠臣蔵』の登場人物をガマに置き換えたものや、本来ならば悲壮感さえ漂う討入りをあっけらかんと茶化したE2.5.2 「義士の誠忠芳戯」など、その愉快さは現代でも十分に通用するのではなかろうか。 その他、新奇を好む気風を反映した、安政3年(1856)の浅草奥山での生人形興行に取材した作品群(E2.6.1~4)や、娘で弟子の芳鳥女・芳女らがコマ絵を添えた作品群(E2.7.1~3)も取り上げた。
