E1.4.2 忠臣蔵 六段目/七段目/八段目/九段目/十段目

絵師:歌川広重〈1〉
出版:
判型:横大判錦絵 
所蔵:立命館ARC
作品番号:arcUP2917

 「広重戯筆」とある。柔らかな筆致でさらりと描かれた5つの場面にそれぞれ戯句が添えられている。1枚に忠臣蔵の六段目から十段目までをおさめるが、あるいは五段目までを描くもう1枚も存在したかもしれない。

 「六段目 郷右衛門外科も及はぬ見立なり」
 六段目、原郷右衛門が与一兵衛住家を訪れると、そこには与一兵衛の亡骸があった。早野勘平がそれを、みずから鉄砲で撃ち殺したと思い込んで切腹してしまう。だが郷右衛門が確かめると、亡骸の傷は鉄砲ではなく刀によるものであったので、勘平の舅殺しの疑いは晴れた。郷右衛門は外科の医者も及ばないほどの正しい診察をしたわけである。

「七段目 のへ鏡すかしたくさい文をよみ」
 七段目、由良之助が祇園の一力茶屋で遊興にふけりながら、顔世御前から届いた文を読んでいる。しかしそれを、二階のお軽が「のべ鏡」を使って、そして縁の下の斧九太夫が月の光にすかして、盗み読みをする。お軽にとっては他の女から来た手紙、九太夫にとっては密事を告げる手紙なので、いずれにしても「くさい」つまり疑わしい文なのだが、「すかした」と「くさい」は屁の縁語でもある。

「八段目 大石のむすこ小石と小なみいゝ」
 八段目、加古川本蔵の妻戸無瀬と娘の小浪の道行。二人が目指す山科には、小浪の許嫁である大星力弥がいる。力弥は大星由良之助の息子、すなわち大石内蔵助の息子主税(ちから)に当たる人物で、それで「大石のむすこ小石」などと言っているが、小浪はほんとうは力弥が「恋し」と言いたいのである。

「九段目 割れものに綿をかふせてとなせつれ」
 九段目、山科閑居の場。陶器などの割れ物を運ぶ際は綿を被せる。「割れ物」はやや下卑た意味合いを含めて娘を指していう言葉でもある。さて、九段目で戸無瀬が運んだ割れ物は小浪。力弥との婚礼を叶えるため、花嫁衣装として綿帽子を被せて連れてきたのである。

「十段目 仮名の外男の手本義の一字」
 十段目に登場する商人天川屋義平は、由良之助たちのために男を立てて、町人であっても義士同然と称賛された。「仮名手本忠臣蔵」の外題は、習字の手本となる仮名が四十七字で、討ち入りに参加した四十七人と数が一致することに由来する。「義」は漢字なので、その四十七字の中には含まれない。義平も四十七士には含まれないけれども、しかし男の手本を示したのである。