A3-05 忠臣蔵十一段目夜討之図

絵師:国芳
出版:天保年間
判型:大判錦絵
所蔵:赤穂市立歴史博物館
作品番号:AkoRH-R0300

おなじみ『忠臣蔵』の討入りの場面を描いているが、舞台は全く意識されず、標題がなければ、雪が降りやんだ後、満月に照らし出されたどこかの夜景を描いた洋風の風景画のように思える。しかも、すべての建物、そして富士山までもがデフォルメされて幾何学的に表現され、わずかに樹木に緑、義士の衣装の一部に藍が彩色されるのみで、光と影が織りなすモノトーンの世界に仕立てられている。錦絵といえば鮮やかな彩色が想起されることからすれば、この作品の配色は異様とさえいえるもので、それがかえって画面に静寂と緊張感を与えている。

この静けさに満ちた情景の中で、黒っぽく描かれた義士たちが、同志に指図し、塀に縄梯子をかけ仇敵の屋敷に乗り込み、がんどう提燈をかざすなど、リアルにうごめき、元禄の吉良邸討入りもかくあらんと思わせる。画面の左下、義士の1人が野良犬に吠えられないように餌を与えているのが、臨場感をさらに高める効果を生んでいる。

国芳の忠臣蔵物、洋風画の代表作として彼の画歴を紹介する書籍には必ずといっていいほど取り上げられる作品であるが、近年の研究によってオランダの書物『東西海陸紀行』中の挿絵を参照したことが指摘されている。国芳の新し物好き、進取の気風をよく示している。